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イッセイエッセイ

965号 体験と作品

2014年08月02日(土)

 現代のある女流作家が、小説のあとがきで次のように書いている。
 自分のこれまでの経験だけで小説を書き続けることは不可能である、できるだけ多くの人と出会って、その人が人生をかけてようやくつかみ取ったはずの大切な何かを横取りさせてもらって自分のものにする、ということである。
 この文章にあって、自分の作り出したものはどれも全て経験を通さなかったものはないとゲーテが語っていることを思い出した。
 ゲーテの考え方は、「詩と真実」、「エッカーマンとの対話」などから知ることができるわけだが、その全体像がそこに全て入っているわけではない。その中に大事な役立つ思想は入っているとしても、きっとゲーテのような人物の複雑に感じられたはずの真の偉大さは、作品から抜け落ちていて表現しきれなかったものがあるのだろう。

(2014.7.27 記)