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イッセイエッセイ

889号 雑想(7)(暗中、車中、湯中)

2013年11月28日(木)

(表面的と実質的)
 いま消費税の8%への引上げや税の転嫁問題など、分野における増税の影響の議論がさかんである。かつて消費税が導入されたとき、多くの分野では自己の販売やサービスに対して税負担を逃れたいと考えて、政策当局に対して「非課税」にしてくれるよう強く要求し、多くは実現もされた。
 しかし消費税の実際を考えると、この税は自動車税やゴルフ利用の税金のような独立した個別の税でないため、非課税になったからといって、そのまま得をしたとは言えない税なのである。前段階での仕入品にはすでに消費税がかかっているため、自己の商品やサービスを売るときに相手に転嫁して税を上乗せできなければ、仕入れの際に自分が負担した消費税分が自己の損失になる。
 その代表例として病院の医療行為がある。病院の売上げは国が定める社会診療報酬で大部分が決定されているから、この料金設定において消費税引上げ分(今回であれば3%)を適切に反映してもらえなければ、仕入の医療品やメンテナンス委託料にすでに課されている税を報酬分に乗せて取り戻すことが不可能になる。診療報酬は勝手に自分たちの判断で引上げられない性質のものであり、また他の要因もふくめて改訂されることが多く、抑制気味になされる。したがって非課税であるので消費税を外税としては扱えず、どの病院も消費税が相当の負担になり、利益分が飛んでしまう程度の金額となる。消費税率が上がれば上がるほど、この問題は深刻になる。
 消費税が創設されたとき、非課税になっても得になるわけではないのでよく考えるべき、と説得されたにもかかわらず、当局の説明に不信の念をもち、表面的かつ目先の理解にとらわれ、とりあえず非課税の方がよいと考えて現在の結果をまねいたことになる。
 こうした回顧談が、先日の診療報酬引上げ要望の際に官庁側となされた。表面的な利得を実質的な損益と混同することは、注意がいるのである。

(実質的と管理的)
 英語のサブスタンスとロジスティクスは、経営上の用語になっており、企業の名前や組織の部門名にも広く使われている。このサブとロジは、すでに使い古されているハードやソフトと同じく、全体を二項的に両面から捉えて仕事をしようとする考え方に立つものである。
 日本語の発想にも同類のものがない訳ではなく、英語ほどはっきりと区分して用いないだけである。例えば裏方や縁の下の力持ち、兵站などはロジステックス的な方面を意味する。
 公務を進める場合には、このロジスティクスの考え方は十分に意識されないことが多く、サブスタンスに関心が行きすぎて、そのためサブスタンスの成果にも悪影響することがある。イベントの会場が寒過ぎるとか、マイクがうまく聞えないとか、出された食事が不調であるなど。
 間もなく受験シーズンになるが、小学校から高校までの教育指導において、学力や偏差値を最大限に引上げることに中心がある。その偏差値をどうしたら有効に使えるか、どの大学のどの学科なら適性や可能性があるか、などの情報収集や判断は自己管理能力の一つとして訓練されていない。
 個人の生活面においてサブとロジの意識は大事であり、ここでもサブに偏重しロジを蔑ろにしがちである。つまり、自分のサブである学力はある程度あっても、それに応じてどのような大学を選んだらよいかのロジの準備が不十分のため、誰かに教えてもらっても判断がつかぬ状態がつくられる。個人の「自己管理能力」つまり人間としてのロジスティクスは、子供期から少しずつ訓練されて行かなければ、受験、就職、結婚、子育てとそれぞれの段階で、様々な不都合を生じてくるのが現実である。

(忘却になじむもの)
 忘却に一番なじみやすいのは、頭にふと何かの調子に浮んでくる些細な自分らしい考え、そうした種類のものである。由無し事、などと古人が語ったことは、もろもろに派生してくる断片的想念のことを指しているものと思う。
 こうした突如として頭に浮かんでくることは、もう一度現われることはほとんどなく、放っておくとそのまま闇に消えてしまう。車中、暗中、湯中ときところを問わず出てくる。そのため、つまらぬことながら一応憶えておくかと考えそのまま他のものに気をそらした瞬間、当のことがらが何であったかもう想起することができない。この忘却をふせぐためには字に書く他に残す方法はない。眠る前に思ったことや朝に目を覚まして感じた種類のことは、枕頭にメモを置いて暗闇で書くより方法はない。しかし寝起きの前後に出てくる考えは、いわば夢に似ていて夢に近いものであるから、覚めた眼でながめると役に立たないものがほとんどである。面倒で難しいのは夢の中にでてきた考えであり、これを夢の中で憶えておこうとした場合、目覚めてもときたま再現できる。昨日は、「つくる」、「つかう」というキーワードによって良い仕事ができるという夢をみた。いざストーリーを再現しようとしたのであるが、この二つの言葉だけは固定できたものの、この頭文字が共通の二つの言葉と巧く結びついていた夢の中のような面白いアイデアの脈絡を見失ってしまった。そして、形容詞を欠いた無構造の二語がぽつんと残ってしまったのである。

(2013.11.24 記)