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イッセイエッセイ

867号 夏のばらばら読書

2013年09月25日(水)

(1)(「継承」ではなく「移行」)
 「権力移行」牧原出著(NHKブックス2013年6月)は民主党政権、自民党の奪回をへて政治安定のために政権交代をどううまく行うかについて論じている。論旨にわかりにくいところがあるが、おおまかな結論としては、第一に、野党は与党案の修正に努力するよりは与党になったときに備えての実行政策を構想すべきこと、第二に、政権移行直前の官僚制度と野党との接触ルールを整備すべきこと、第三に、野党はマニフェストを着手可能な案件にしぼるべきこと、第四に、省庁再編はタイムコストがかかるので後まわしにすべきこと。「耳目を引く『大胆な』改革よりも、地道な制度変更の努力と、政策革新の試みを続けること」を主張する。
 本書は主張の前提として、戦後の自民党から今日までの政治上の人物を中心にして、意見決定における組織間の力学に視点をおいてフォローしている。
 この十年あまり政治をどんどん改革すべきであって、政治が不安定化することをいとわないというのが、おおかたの学者やメディアの姿勢であり、言い分であった。本書の副題が「何が政治を安定させるのか」であるから、後に首相となる佐藤榮作が、戦後まもなくに唱えていた「政局の安定」が急務という当時の考えに、表面的にみると先祖返りをしているのかもしれない。ここ数十年、改革の言いすぎでもあった。
 なお、本書の「権力移行」(successionでなくtransition)というキーワードは、「政権交代」につづく概念を与えるものとして、聞きなれない政治用語を用いたものなのであろう。

(2013.8.17 記)

(2)(功利か平等か)
 次に「ベンサム-功利主義入門」2009年フィリップ・スコフィールド著、川名雄一郎・小畑俊太郎・訳(慶応大学出版会2013年)、著者は英・UCL法学部教授であり、序文にベンサムの思想がさらに重要になっているのは「政策立案者が幸福という観念にますます重要性を与えるようになっていることです」と述べる。
 功利主義は、社会の利益を最大化することに目的があるので、デモクラシーの基本である満足の分配における正義が保障されないのではないかとする反論があるようだ。これに対して最近、ポール・ケリーという学者などの修正主義(リヴィジョニズム)からの反論を紹介し、ベンサムの考えは、立法者の課題として個人が追求する幸福が何であれ、その条件として他の侵害をうけずに「安全」や将来の「期待」というものを想定しているのであるから、ベンサムの功利主義は「自由主義的」な性格があるとする。
 道徳についての最良の説明かは、功利主義(外在主義)なのか、リベラル平等主義(直観主義)なのか、の問題なのである。
(3)(ロマンと小説)
 イーディス・ウォートン(1862-1937年米)の「ローマ熱」(1934年大津栄一郎訳)、ヘンリー・S・ホワイトヘッド(1882-1932年米)の「お茶の葉」(1924年荒俣宏訳)を読む。二つとも短篇、「百年文庫50 『都』」(ポプラ社2010年)に収録。
 「お茶の葉」から。
 「ミス・アビーは、自分はもう三十七歳になるのだとよく承知していたが、青年が四度も自分に視線を向けるので、またかすかな胸のときめきをおぼえ、もう少しで声をあげてしまいそうだった」
 「ローマ熱」から。
 「ボーイ長はチップにお辞儀をしてから、どうぞゆっくり願います、ディナーまでいていただければ、なおいっそうありがたいことです、今夜は十五夜です、ご存知と思いますが、と答えた」
 それにもう一篇、ノヴァーリス(1772-1801独)「アトランティス物語」高橋英夫訳(百年文庫54 『巡』 2010年)。
 これはロマン主義、演劇的な物語、ややついてゆけない。
(4)(電気について)
 「ヨーロッパの電力系統はヨーロッパ全体で一括制御されているかのような大きな誤解があるが、各国は自国の電気は基本的には自国で発電しており、足りない、あるいは余った分のみを融通しているだけである。その量は、いずれの国においても通常2~3%(裕度の範囲内)にすぎないという厳然たる事実を見逃してはいけない」
 「東京電力と関西電力の最大電力を足し合わせると、ちょうどフランスと同じになる。日本の電力会社がいかに巨大かわかる」
 「これ以上連系するのなら需要地の近くに発電所を建設した方がよっぽどよい。電力は地産地消が本来の姿であり、電力システムは本来分散型がよいのである」(「電気のしくみ」平成25年佐藤義久著 丸善出版から)
 発送電分離論について参考になるか。

(2013年8月記)