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イッセイエッセイ

865号 飛行機のうた

2013年09月21日(土)

 飛行機が羽田空港から上昇をする中で、すばらしい好天のために、関東平野の中心から日光、桐生、前橋などの北方の山際さらにその奥に連なる山々までがくっきりと翼下に展開する。手前の筑波山などは地上から見て名山であるが、上空からまるで小森のように青く細長い丘に見える。数日来の大雨のために、利根川のほかはどの中小河川も茶色くにごって蛇行している。関東平野の東部の山々の上空あたりでは、秩父山系から関東平野の方向にだんだんと傾斜して平地に移行する大地の姿がくっきりとして見え、動くはずのない大地が流体のように低い方へ流れ落ちているように感じられる。しばらくすると右手に、山頂が赤褐色の浅間山が望め、白い煙のようなものが有るかなしかに見える。間もなく下界は山ばかりになり、ちょうどケバ式の地図のように陰影が際立って見える。雪のない北アルプスは秋をむかえており、雪をまつごとき構えである。山脈の南端には乗鞍か焼岳なのか、山頂の火口が真下に見える。北アルプスの峰々の頂上は肌色がかっており、こうした山脈の山の色のままに崩れた崖となり、斜面に伸び落ちて谷間へと崩れてゆく。谷の狭い平地は、上空から見るとこの山頂と同じ土の色をしているのである。北の方には富山平野と日本海が見えはじめ、砺波平野に近づいたとき散居地帯は屋敷と田圃がちょうど真横に朝日を受けて、広い扇状地上の家々が黒く点々として規則的な模様のように見える。
 こうした飛行中、機内の音楽は「人生ドラマの交差点ともいうべき空港をテーマに」という語りによって、飛行機に関わる懐かしの曲が流れる(Skyward 9月号)。歌謡曲はいつもその時代の希少なもの憧れのようなものをテーマにする。いまはそういうものさえない。
 北ウイング(中森明菜)、夜間飛行(ちあきなおみ)、空港(テレサ・テン)、アメリカン・フィーリング(サーカス)、東京の灯よいつまでも(新川二朗、39年)、雨のエアポート(欧陽菲菲)、羽田発7時50分(フランク永井、32年)、国際線待合室(青江三奈、44年)、アテンションプリーズ(ザ・バーズ)、夜霧のエアターミナル(マヒナ・・・ここで着陸となり、途中のまま音が切れ、筆も止まる。

(2013.9.18 機中記)