西川一誠後援会サイト

イッセイエッセイ詳細

イッセイエッセイ

860号 二百十日の朝

2013年09月03日(火)

 花ゆずの木の葉が蟲に食われている。庭に出してある植木鉢の木である。このことは数日前にわかったことだ。蟲はもう捜しても見えないので蝶になったのだろうかと、家人と言いあっていた。
 きのうは台風が温帯低気圧に変り日本海を通過した。夕方に一時強い雨が降り、そのあとは静かな雨がつづいた。今朝は一時止んでいたのだが、また急に雨が落ちてきた。
 昨日の台風くずれの強い雨と風のせいで、鉢が一つ横倒しになっている。スモモが植わっている鉢であり、背たけが1メートル近くあり、これだけがひっくり返ったのである。蜜柑の木の鉢は今年からようやく実をつけ、今では親指と人差し指でできる丸い輪ほどの大きさの青い実を、十個以上つけている。しかしスモモは木がやくざなタイプなのか、葉だけが立派に茂って枝を伸ばしているだけである。この実のなっていないスモモの鉢を起こすために庭に出た。鉢を元の場所に戻し、虫害が気になっていた花ゆずの枝をもう一度じっくり眺めた。蟲の気配はない。幹から緑の枝へとつながる途中の細い茶色の枝も、見方によっては擬態をした長い蟲のようにも見えるが、想像のしすぎであろう。先端の葉をつまんで揺すってみても不動であり、やはり木の枝としか見えない。
 まさかとは思って、割り箸を持ち出して茶色の枝を挟んでみた。するとどうだろう、4センチほどの枝が動き出して、眠りからさめたように身をよじるではないか。幹から緑の枝にそって自身を茶色の枝にして紛れていたのである。こんな長さと色をした蟲は見たことがない。箸にはさんだまま家人に声をかけるとびっくり感心し、逃がさないで退治してほしいと言う。間もなく何かに変身するのであろうがと、行く末を思った。この長さが一寸をこえる幼蟲は、鮮やかな色の小さな角や剣のようなものを出し、懸命に逃れようとしたものの、最後は土の中に圧せられ、坑蟲の難にあったのである。
 ちょうど居間のテレビでは「趣味の園芸」が流れており、色鮮やかな紫紺ノボタンの栽培方法が説明されている。花といえば春に黄色の花をみせてくれる玄関のさんしゅゆの木は、一本が今夏の暑さでどうやら枯れてしまったようだ。
 鉢一つ転げて了る厄日かな。

(2013.9.1 記)