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855号 アジア力の世紀-どう生き抜くのか

2013年08月26日(月)

 進藤榮一著の「アジア力の世紀―どう行き抜くのか」(岩波新書2013年)を読んだ。その主張の本筋と思われる部分の概要を次に記す。

 アジアは互いに近くなっており、二十一世紀情報革命下において、交通通信手段の急速な発達により、アジアは「一日経済圏」と化している。
 二十世紀の基軸をつくってきた米国主導の世界が確実に終焉を迎え、中国を筆頭に、インド、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)などが日本とともに「一つのアジア」を形成し、パスク・アメリカーナ(米国の力による平和)に代るポスト・アメリカの時代を先導し始めている。
 時代はもはやテリトリー・ゲームの時代(領土と資源を巡って国家が戦争を繰り返す時代)でもなく、プロダクション・ゲームの時代(生産と消費の最大化を求める大量生産大量消費の時代)でもない。情報(知識)と共生と環境を基軸とした、知識・環境・共生的なサステナビリティ・ゲームの時代である。
 国々が互いに争うことは難しく、相互依存と相互浸透の深化した「共生の時代」へと突入する。戦争はもはや引き合わない時代になってくる。
 グローバル情報化された世界の中で、企業は利潤の最大化を求め、生産拠点を国境を越えて分散配置している。情報革命が生産工程の脱国境化を推し進めることになった。クルマであれ電化製品であれ、今や多くの生産工程は一国内で完結することはない。生産工程が国境を越えて地域に分散し、全体として統合されて製品となる。二十一世紀に入り、アジアを中心に登場し始めた新しい分業のかたちが、ネットワーク分業である。このような生産工程を可能にしたのが、生産モードにおけるモジュール化-複雑な部品をより小さな単位に分解し、各単位を組み合わせて生産や経営の効率化を図ること-である。情報革命下において、ネットワーク化とモジュール化とが新しい生産と経営の思想となる。
 先進国は、途上国の安い労働力を利用すべく、現地に工場を建設し現地生産を進める。途上国は、先進国からの企業進出によって、雇用を増大させ所得水準を上げることができる。途上国は社会的に豊かになり、市民活動を活発化し、国内市場が拡大する。途上国の市場が拡大すれば、先進国の最終商品の販売先が広がり、販路は拡大して総体として先進国も豊かになる。相互補完するアジアの発展段階の違いと多様性こそが、「一つのアジア」をつくる。
 アセアン10か国(インドネシア,カンボジア,シンガポール,タイ,フィリピン,ブルネイ,ベトナム,マレーシア,ミャンマー,ラオス)はアジアでいち早く地域統合を進展させた。そして、2008年までに中国、韓国、日本と、2010年までにはインド、オーストラリア・ニュージーランドとそれぞれ自由貿易協定(FTA)を発効させた(それぞれのFTAは「アセアン+1」と呼ばれる)。これらの「アセアン+1」を車輪のスポークとして、地域統合化の車輪を回転させ先進させた。
 「一つのアジア」をつくるために、何をすべきか。
 第一に東シナ海に資源エネルギー共同開発の仕組みをつくること。第二に「一つのアジア」を担う次世代を育成すること。より難しいのは第一のそれである。第二のプロジェクトはすでに進行中だがなお時間を要する。それに比べて東アジア地域包括的経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)は、経済的合理性からもウィン・ウィン関係を最もつくり易い。RCEPを上記の二つのプロジェクト(資源エネルギー共同開発、次世代の育成)とともに進めることによって、東アジア共同体形成の暗礁を乗り越えることができる。

 以下に若干の感想を述べる。
 交通通信の手段の発達によって、アジアは確かに「一日経済圏」と言える距離になっている。しかし、相互依存と相互浸透の深化した「共生の時代」へと突入するかは疑問が残る。距離が縮まったのはアジアだけではなく、全地球規模での出来事であり、必ずしもアジアにだけ相互依存が深まっていくとは限らない。現に、日中関係が悪化する中、中国は日本市場ではなく欧州市場に力を入れている。
 著者は、アジアは先進国や途上国など格差と多様性があり、それらが相互補完し「一つのアジア」をつくると述べている。だが著者の考えであれば、いずれは途上国が先進国に追いつき、相互補完は崩れてしまうのではないだろうか。
 アメリカについては、「黄昏の帝国」と表現し、アメリカの主導的な地位は崩壊すると述べている。また、TPPを例にとり、外交にたけた米国は日本の国益を損ねようとしていると主張し、TPPよりアセアンとのFTAを推進すべきと論を展開する。しかし、著者の主張はアメリカとの経済的繋がりの損得にのみ注目し、勢いのなくなった国から勢いのある地域に乗り換える、といった安易な選択を勧めているようにも感じる。主張の理由がいるであろう。
 東シナ海での資源エネルギー共同開発の仕組みについても、その資源を独占したい(独占できる)と思う国がある場合、共同開発はかなり困難である。また、シェールガスやメタンハイドレートなど今後の技術開発によるエネルギー市場の変化についての考察もされていないように思う。総じてリアルさにやや欠けるところがある。

(2013.8.13 記)