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イッセイエッセイ

829号 戦争と平和の由来

2013年07月02日(火)

 最近「戦争学原論」という新しい領域の本を半読した。伝統的に平和論とか平和に関する学問分野は、外国にも日本にもあるのだが、戦争学と名をうった学問は日本にはまだのようである。
 この本は、戦争をめぐっての古今東西の学説や潮流について、網羅性をもって解説し、この系統の研究が必要であることを説きたいとしている。
 森鷗外が翻訳して山縣有朋に呈したというドイツのクラウゼウィツの戦争論は有名である。戦争は政治を追及する一方法であり、外交の延長であるという理論は、当時マルクス政治学にも受け入れられ、戦争に対しその種の理解を抱いている人は多いだろう。
 本書では多くの国外の専門家の名前が掲げられ、その是認すべき点や問題点を指摘しているものの、著者自身がおおむね妥当として依拠している考え方は、ギリシアのペロポネソス戦争を描いたもっとも古典的なツキディデスの理論であり、「利益」、「恐怖」、「名誉」の三つが戦争の主な原因であり目的にもなるという考え方である。
 「戦争」と「平和」という一見して正反対の状態が、現実の世界で一体どんな構造的関係にあるかについては意見も分かれるであろうが、本書では和戦が別のものではなく、いわば球の半面であって、政治にも当然に関係があり文化にも由来があるのではないかと言っている。
 最近では全く場違いな文脈においても、戦略や戦術というような用語が頻繁に使われるが、戦争と平和が一体であるとの見方に立てば、平和戦略、無抵抗戦争などの熟語も大いにありうることになる。
 平和と戦争、生と死、健康と病気、幸福と絶望、こうした人間に係わる普遍的なテーマは両面性があり、片方だけの姿を強調して都合よく論じても不完全ということになる。

(2013.6.27 記)