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イッセイエッセイ

827号 R・クルーソー

2013年06月25日(火)

 スウィフトの描く「ガリバー旅行記」のガリバーは、大きくなったり小さくなったり、さまざまな荒唐無稽の国々を巡って数奇な出来事を体験する物語である。周りの環境は変化に富んで面白いのだが、主人公の性格の方ははっきりとあまり定まった感じがしない。このスウィフトに刺激を与えたと伝えられている同時代のデフォー作の「ロビンソン・クルーソー」(1719年)のクルーソーの方は、はっきりした個性を持っており、物語の主人公としては典型化された人物である。内面性の程度はともかくドンキホーテやハムレットと同じように、一人の人間としての性格を表している。アダム・スミスやマルクスはもとよりそれ以降、経済学の多くの教科書に最も純粋で原初的な経済人として登場するのが、このロビンソン・クルーソーである。当時の人々にとっては極めて関心を引く小説の設定であり、キャラクターでもあったに違いない。
 この「ロビンソン・クルーソー」は誰でもよく知っているけれども、読むことの少ない代表的な書物かと思い、児童文学向けの岩波少年文庫(海保眞夫訳2004年)を一読してみた。余りにこの頃は訳のわからない話しが多く、気分もさえないので、これこそまごうかたなき自産自消、質素倹約の極限、自己のほか人無き世界の二十五年間であり、この冒険譚、忍耐物語を読むのも気分一新、何かのヒントが得られるかと考えたのである。そこには冒険家、縄文人かつ弥生人、園芸家かつ狩猟家、実務家、信仰者で楽観人、希望保持者など一人で何役もの仕事や役割を担って最後には生還するサバイバル・ストーリーがあるのである。読後に身のまわりに目をやると、余りに便利で安穏すぎて奇妙な気持になった。

(2013.6.20 記)