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イッセイエッセイ

813号 English in Wonderland

2013年05月11日(土)

Perfect is imperfect
 ”I wish I hadn’t cried so much!” said Alice, as she swam about, trying to find her way out.(p20)
 「あんなに泣かなければよかった!」と出口をさがそうとして泳ぎまわりながら、アリスは言いました。
 ”・・・she put her hand in her pocket, and pulled out a box of comfits (luckily the salt water had not got into it), and handed them round as prizes.(p26)
 ポケットに手をつっこんでみたらボンボンの箱があったので(幸いその箱には塩水は入っていませんでした)、それを取り出し、みんなに賞品として分けました。

 上記のように児童文学「不思議の国のアリス」の世界では、実際あちこちに過去完了形が出ている。
 中学校の英語では、現在完了形は教えるが「過去完了」までは教えないことになっていると聞く。仮定法も同様らしい。不思議の国の学校の英語にはアリソウ・・・・な話である。この本は作者の近くに住んでいた実在のアリスという少女のために書かれたらしいのだが、アリスはその時10歳くらいだったから小学校の年齢である。さてこの例文からもわかるように、完了形は現実にはむしろ否定文で使われることが目につく。すなわち完了形ではなく「未完了形」なのである。
 したがってこのアリスの物語風に言えば、
 トランプの女王―子供が完了形を使ったら、そやつの首をはねろ!―
 アリス―じゃ「未完了形」ならだいじょうぶ、―
、ということにする。

とりちがえ
 ”Did you say ‘pig’ or ‘fig’?” said the Cat. “I said ‘pig’,” replied Alice (Ⅵ・p59,113頁)
 「(ぶた)だっけ、ふただっけ」と、ネコは言いました。「(ぶた)よ」と、アリスは答えました。
 本訳―「(ぶた)だっけ、むだだっけ?」 figはイチジク、fig leafイチジクの葉

 ―that begins with M, such as mouse-traps, and the moon, and memory, and muchness ―you know you say things are much of muchness ― (Ⅶ・p67,136頁)
 「お」ではじまるものなら何にでもです。たとえば、(おり)とか、お月様とか、想い出とか、多過ぎとか―「多すぎて石ばかり」なんて言いますよね―
 本訳―「『さ』ではじまるものなら何にもです。たとえば、砂糖つぼとか、寒さとか、さかさまとか、さっぱりとか―『さっぱりわからない』なんて言いますよね」

 ”Reeling and Writhing, of course, to begin with,” the Mock Turtle replied; “and then the different branches of Arithmetic ―Ambition, Distraction, Uglification, and Derision.”(Ⅸ・p85,168頁)
 「もちろんまず最初は、よろめき方とぬたくり方です」と、(まが)い海亀が答えました。「それから多岐にわたる算術ですな、具体的に申せば、大志(たいし)算、気ぬき算、(みに)くく算、そして、笑われ算です」
 本訳―にせ海亀が答えました。「・・・もちろんまず最初は、飲み方と注ぎ方・・・具体的に申せば、みだし算、いびき算、押しかけ算、そして、すわり算です・・・」 reelよろめく(≠read)、writheのたくる(≠write)
 ”I never went to him,” the Mock Turtle said with a sigh.”He taught Laughing and Grief, they used to say.”(Ⅸ・p85,170頁)
 「私はあの先生には習わなかった」と、紛い海亀ため息をついて言いました。「なんでも、楽天落語(らくてんらくご)義里悲里語(ぎりひりご)を教えたそうだが」
 本訳―「・・・楽天語(らくてんご)義理借語(ぎりしゃくご)・・・」 Laugh≠Latin、Grief≠Greek

話に尾ひれ
 ”Mine is a long and sad tale!” said the Mouse, turning to Alice, and sighing.
 「しからばわたしの物語、悲しく長いをおいといなくば、お話しもうそう!」ネズミはアリスのほうをむいて、ため息をつきながら言いました。
 ”It is a long tail, certainly,” said Alice, looking down with wonder at the Mouse’s tail: “but why do you call it sad?” (Ⅲ・p27-28,51頁)
 「とっても長い尾をしていらっしゃるのね」アリスはネズミの尻尾に感心してながめながら、そう言いました。「でも、尾をいったいどうなさったの?それに、尾が悲しいって、どういうことかしら?」

nonsense is sense
 ’Never imagine yourself not to be otherwise than what it might appear to other that what you were or might have been was not otherwise than what you had been would have appeared to them to be otherwise.’(Ⅸ・p80,157頁)
 「お前が他人からそのように見える者とは違うものではないと思ってはならないのはお前が何者だったか或いは何者でありえたかということはお前がこれまでずっと何者であったかと違うことではないことが他人にはそうでないように見えることと違ってはいない」(?!)。
 この意味は簡単に云えば、”Be what you would seem to be”(見てほしいとおりのものになれ)であるらしいのだが、「もっと簡単な方がよかったら」ということで、言葉遊びをしているのである。英語の子供達が文脈を混乱しないのかどうかは聞いてみるよりほかはないだろう。

(以下の本による)
 Lewis Carroll「Alice’s Adventures in Wonderland and Through the Looking-Glass」Penguin classics 1998
 「不思議の国のアリス」脇明子訳 岩波少年文庫 2000年

(2013.5.3 記)