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イッセイエッセイ

780号 英語は語源にもどれ!

2013年02月27日(水)

 「読み書き英語」で学習してきた日本人に欠ける聴きとり能力。これを克服するのが山並メソッドだ。たった200の基本音を覚えることで相手の言っていることに瞬時に対応できるようになる。英会話が滑らかに進む画期的な学習法!
― これは文春新書の山並陞一(やまなみしょういち)著「語源の音で聴きとる!英語リスニング」(2011年)のカバーに書かれている出版社の売り言葉である。さて、その学習上の効能はいかに。
 著者は企業の仕事をされながら、研究をされてきた方のようである。別著の新書として「語源でわかった!英単語記憶術」があると宣伝文がある。こちらの方の本は、英語の先生が教室で使うともっと役に立つかもしれない。
 本書の眼目は、われわれが持つ先天的な統語力(チョムスキーの統語論による)の働きを用いて、英語の単語の中にある鍵となる語源的な「短い音」の響きと意味を一体として識別し聴き取って、英語のリスニング学習を容易にさせよう、と目論むものである。
 本書を一読した限りでは、こうした理論に基づく基本語(音)と派生語のグループ化がどの程度効果的になされているか、また学習者がトレーニングにおいて実際的に使えるかどうか、などの点が気になるところである。学問的には、語源学に特有する歴史的・帰納的な追及の難しさ、理論上の統一性などについても議論すべきところがあるのではないかと思われる。
 しかし、英語の学習において語源からのアプローチは極めて有益と思われ、もっともっと教師の勉強と教室での活用が有ってよいだろう。
 とまれそんな難しく考えないで、たとえばbutとout、sameとseem、kingとkind、caseとcheese、wellとwill、waterとwinterのように、思わぬ言葉どうしが仲間であったりすることを知ることにより、学習に役に立つことになるのであればそれは結構だと思われる。
 著者は基本的な200の音(祖語)をもとに、8000あまりの語彙に拡大できるという考え方である。これらの大もとの祖語が、どのような規則で他の多くの単語に派生したかの区分については、短い音の起りを「祖語」とし、祖語からの派生音がよりよく短い音を説明できる場合はこれを「語源」(ほとんどラテン語)と定義づけ、関係する単語を説明している(「語源」の意味は祖語からの「主要な」派生語群のことかと思考する)。

 最初に印欧語系の祖語の音「WER ウァ 曲げる」を、代表語としてとりあげて、具体に説明を行っている。
 WER(ウァ)というゲルマン系の音をもつ語は、多くの単語から帰納的に抽出してみると、worと表示されることが多い(以下、ゴシックで表示した単語はよく使う語なので、便宜そうしたまで)。
 work(仕事をする)/word(言葉←舌を曲げる)/worm(体をくねらせて動く虫)/worry/worseのような語にみられる。いずれも「werウァ」の音をもち、この音が共通して示唆する動作(意味)は、「曲げる」動きと推定できる。このように現在使われている言葉の音と意味の共通する部分を抽出し、これらの語が「祖語WER」から来ているとする方法論なのである(この方法は言語学において一定の成果を収めている研究法だと著者は説明している)。
 そしてこのwerは、その中の母音が一定の範囲で他の母音に変り、war/warp//wireのようにwarウォ、wirウァイの字・音にもなる。これらの意味もwerと同じく、曲げたりねじったりする動作を示す。
 このようにwerは、その母音が変ると同時に、さらに母音と子音が入れ替るような変化すなわちwraラァ、wreレ、wriリ、wroロへと変化した派生字音にもなる。
 すなわちwrap(くるんで上をねじる)/wrench(ねじる)/wreck(船体を曲げる)/wreath(リース)/wrestle(組み合う)/wrist(曲がる手)/write(書く←手を曲げて)/wrong/
 さらにラテン語系からの歴史的影響により、werがverヴァーの音になる。verb/version/vertical(垂直の)
 これが更にフランス語系への変化においては、先頭音wがguになる。guard<ward(監督、行政局)
 なおギリシア語系では(ギリシア語からの影響がどのようにして生じたかは、本書では説明がなく不明)、werkからwが消失して、そしてergとなり、en-erg-y(エネルギー)が生まれる等。
 このような説明から空想することは、遠くタキトゥスの時代そしてさらに遠い昔、森に住む人たちが唸ったり呟いたりしていた不可解な音の塊が、様々発展して今に見る英語の単語になってきたような感じをいだくのである。
 以上が著者が苦労されてまとめた実用的な語源論、つまり母音の他の母音への変化、母音と子音の位置の交代、子音素の相互の移転(軟口蓋摩擦音c,g,h,kなどの間で)、言語系間の変化の規則、などについての基本的な説明である。したがってwer以外の他の印欧祖語とみられる語においても、同様の規則的変化があると考えるのである。
 以下、他の基本語を、本書の順とはやや離れて、より単純な形とみられる動詞系の音声系から手前勝手に示してゆく(もちろん著者の研究をもとに)。

〔祖語KER カァ核を意味する〕48頁
<字音の変化例-以下同じ>
 cerサァ/carカァ/corコァ/cur/cir//creクリ/cra/croクロ/cru/cri/herハァ
<具体的な単語の例-以下同じ>
 kernel(核)/cardinal(枢要な)/core/cord(コード←中に芯がある)/corn/create(創造する←核が育つ)//courage/cereal(シリアル、穀物)

〔祖語per パァ正面から通り抜けるの意〕278頁~281頁
 porポォ/parパァ//preプリ/proプロ//priプライ//forフォァ/farファ/fri/fur//froフロ/feaフィ
 perfect(fect-作る)/person(son-音を通して)/perdon(don-与える)/peril(通る危険)/percent(cent-に対して)/port(港)/porch(入り口)/portion(一部←運べる量)/portray(肖像←向き合って描く)/property(公然と所有物)/proud(胸を張る)/progress/prime//forth(前方)/farther(先へ)/first/fear(恐れ)/front/frown(渋面)//以下<接頭辞付き>sport(スポーツdisport→sport)

〔祖語TER タァざらざらしている、回す〕116頁
 tur/tor//tre/thre/thro/tri/tro//dri
 turn/torch(たいまつ、松をねじる)/tour(旅)/tower(塔まわって上る)/torture(苦痛)//trouble/tropical/drill/drive/thread(糸ねじる)/throw(投げる)//以下<接頭辞付き>stir/storm/disturb/entropy/deteriorate(摩滅する)/tribology(摩擦学)/detrimental(すり傷をつける、有害な)

〔祖語BHER ベァ身に帯びて運ぶ〕140頁
 ber/bir/bor/bring//fer/far
 bear(帯びる、生む)/beard(ひげ)/bearing(身のこなし、ベアリング)/birth/burden/bring//ferry(渡し舟)/fare(渡し賃)//以下<接頭辞付き>differ/suffer/inferior(より劣った←中へ運ぶ)/offer/prefer/fertile(肥沃な、養分を運ぶ)

〔祖語sker スカァ切り落す〕143頁
 skir//scar/scer/scor/scra/scri//sher/shir/shor/shar/shav/carn(sの消失)
 skirt/scar(切り傷)/score(数を刻む)/scarlet(緋色)/sculpture/scrape(刻む)/scratch/scrap/shirt/short/shore/share/shave/shape/sharp/shatter/shear(断截する)//scatter(ばらまく)/ski/carnal

〔祖語kur クァ心を配る〕155頁
 cure/sure
 cure(養成する)/sure/curious//以下<接頭辞付き>accurate(正確な)/secure(安全な)/procure(手に入れる)/assure/ensure/insure

〔祖語stra ストラ広げて積む〕260頁
 stra(w)/stri/stre/stru/stor
 straw/stratum(層)/strategy(勢力を広げる)/stride(またぐ)/strive(努める)/street/structure/struggle//以下<接頭辞付き>construct/destroy/obstruct/industy/instrument(道具)/instruct(教える←方法を積み上げる)

〔祖語DER デァ踏む〕272頁
 tre<der→ter→tre>/tra/tri/tro
 tread(踏む)/trade(交易する)/trap/traffic/tramp(ふむにじる)/trip/trot(早脚)

〔祖語WEIR ウェア覆う〕241頁
 weirウェア/warウァ/verヴァ/(フランス語系)garガァ
 weir(堰←水がおおう)/cover(おおい←全部を覆う)/garage(車庫←上を覆う)/garment(衣服)//以下<接頭辞付き>discover/uncover(はぐ)≪掲げられた用例少なし≫

〔祖語GNO グノ知っている〕201頁
 gno/knoノゥ//noノゥ(kの消失)//keenキーン<kno→ken→keen>/cun/narナ
 know/knowledge/noble(高貴な←知られている)/note/notice/notion(考え)/notorious(悪名高い)/keen/cunning/narrate(語って知らせる)//以下<接頭辞付き>cognition(認識)/recognize/ignore(無視する←知るの否定)/diagnose(診断する)/acknowledge(確認する)

〔祖語KWO クォゥ答えを求める〕203頁
 quo←kwoクォゥ/qua←kwaクォ/(what,why,who)←hwat←kwat
 (ラテン語系の)queクェ/quiクィ/quaクォ/quoクォゥ/quainクゥェイン/quireクァイア

 quest/queer(変な)/quiz/quarrel(けんか←猜疑)/quality(品質←どんなものか)/quantity(量how much)/quote(引用する←どこを用いるか)//以下<接頭辞付き>equal/equator(赤道)/equivalent(等価の)/adequate(適切な)/acquaint(知り合いに)/aquire(手に入れる)/enquire・inquire(問い合せる)/conquest(征服)/request(要請)/require(必要とする)

〔祖語SEK セク後を追う、つながる〕207頁
 secセク/socソク/sequセクゥ/seeシー/sueスー/suiスイ/sigシグ/signサイン
 second(次←先頭につながる)/soccer(サッカー←連盟規則のフットボール)/social(社会←つながり)/sequence(一連の)/see/seek/sue(訴える)/suit(上下うまく合う)/suite(次の間)/sign/signal/significant(重要な)/sight(視野)//seal(封)/sake(目的)//以下<接頭辞付き>associate(割り当てる)/assign/design/insight(識見)/pursue(追い求める)/resign(辞任する)/designate(指示する)//execute(敢行する)/persecute(迫害する)/prosecute(起訴する)

〔祖語STREG ストレィグ強く引く、打つ〕234頁
 striストリ/straiストレイ/streストレ/stro
 strike(打撃、ストライク)/strict(厳格な)/straight/strait(海峡)/strain(引張る)/streak(筋)/stress(緊張)/stretch/stroke(一撃)//以下<接頭辞付き>district(区域←行政の縄張り)//prestige(威信)/restrict(抑制する)/restrain(拘束する)/constraint(制約)

〔祖語SED セド据える〕74頁
 set/sit/sad/site//sess//siderシダァ/sireザイア(sitの派生語siderの短縮形)
 set(据える)/settle/seat/sit/situation(情勢←座り具合)/saddle/site(敷地←据える場所)//session(会期←座ること)//以下<接頭辞付き>desire/consider/assess/obsession(執念)/subsidy(補助)/upset

〔祖語mit ミット送る、投げる〕122頁
 miss/mess//mit
 mission/message/mess(乱雑)//以下<接頭辞付き>omit/permit/admit/commit/submit(さし出す)/transmit(送る)/emit(放出する)/dismiss(解散する)/premise(前提)/promise(約束←皆の前で言う)/compromise(妥協する←相互に約束)

〔祖語PEL ペル折り曲げる〕126頁
 pleプル/pleaプリー/plo/pliプライ//folフォゥル/fleフレ
 pleat(ひだ、プリーツ)/fold(折る)/flex(曲がる)//以下<接頭辞付き>apply(応じる)/multiply(掛け算する)/reply(返事する)/display(展示する)/simple(簡単な←一つ折る)/reflect/employ(雇う←内側に折る)/exploit(開発する)/diploma(外交文書←二つに折る)/imply(暗示する)/explicit(明示的な)/complicate/perplex(当惑させる←折ってわからない)

〔祖語TEN テン張る〕128頁
 ton/tunティュン/thinシン/thunサン
 tend(傾向がある←引っぱられる)/tent/tone(音調←張り具合)/tune/thin(薄い←張って)/thing(物←支持しているもの)/tenor(テノール←張りのある声)/tender/thunder(雷←太鼓の轟き)//以下<接頭辞付き>attend/antenna/content/contend(競う)/extend/intend/intent(意図)/pretend/continue/continent(大陸←つながった)//attain(達成する)/contain(容れる)/retain(ひきとめる)/sustain(支える)/astonish(驚かせる)/intense(強い)

〔祖語MAG マグ手で練る〕138頁
 makメイク/masマス・メイス//magマグ/mingミング/mangマング
 make/mason(石工)/magma/mass/mingle(こね合せる)/among(~に混じって、~の中に)

〔祖語REUP リュプ引き裂く〕139頁
 rip/rop/rob/rup
 rip(引き裂く)/ripe(熟した←手で割れる)/ripple(さざ波)/rift(亀裂)/rope/robe(外衣)/rob(奪う)/rupture(破裂)//erupt(噴火する)/corrupt(堕落する)/interrupt(邪魔する)

〔祖語SPEK スペックじっと見る〕188頁
 spec/speci/spi
 spy(スパイ、ひそかに見張る)/species(種類←同じと見る)/special/specify(明確にのべる)/specimen(標本)/spectacle(光景←目にうつるもの)/speculation(推測、投機)//以下<接頭辞付き>aspect(局面)/inspect(検査する)/perspective(見通せる)/prospect(展望)/suspect(疑う)/despect(かかわらず←見もせずに)/despise(見下す)/conspicuous(目立つ)

〔祖語LEU リュゥ解きほぐす〕247頁
 loosルース/laxラックス/luリュゥ/lyzライズ/lysリス
 loose(ほどけた)//以下<接頭辞付き>relax/slack(緩める)/solve(解くleu=lv)/resolve(解明する)/absolute/solution/dissolve(溶かす)/analyze/paralysis(麻痺)

LEV レヴ軽くする〕255頁
 祖語legwh・leghレグゥ→levレヴ/lighラィ/levレヴ/libリブ/livリブ
 light/lever/level/literly//以下<接頭辞付き>deliver(届ける、分担する)/deliberate(熟考する)/elevate/relevant(相互に関係する)

〔祖語VEN ヴェンからだを運ぶ〕266頁
 venヴェン/veneヴィーン
 venue(行き先)/venture(敢えてする)//以下<接頭辞付き>avenue/event/invent(発明する)/prevent(予防する)/souvenir(記念品←上に来る品)/convenient(便利な)/convention/revenue(収入)/intervene(介入する)

〔祖語BRAK ブラク壊す〕269頁
 brak(ブレイク)/break//(ラテン語系)fragフラグ・フラジ/frailフレイル
 brake(ブレーキ)/break(壊す)/breach(違反)//fragment(破片)/fraction(かけら)/fragile(壊れ易い)/flail(ひ弱な)

〔祖語LEEP レィプそこに留まる〕270頁
 livリブ・ライブ/lifライフ/leaveリーブ/layレイ
 live(住むleip→leiv→live)/life/leave//<接頭辞付き>delay/relay(つなぐ←くりかえし留める)

〔祖語US ユス使う〕271頁
 usユーズ・ユース/utユート
 use/used/usual/usage(しきたり)/utilize(利用する)/utensil(用具)

〔祖語SKEL スケル体を切り刻む〕273頁
 scale/skel/skil/skul/shel/shoul/shiel//halfハーフ(ここに分類される理由は?)
 scale(うろこ)/skill(技←身を削って)/skull(頭骨)//shelf(柵)/shell(貝殻)/shelter(盾)/school(学校←分かれた群)/half(半分←二つに切った?)

〔祖語TOM トム切り刻む〕274頁
 tomトム/tumテューム/temテム/teamティーム
 tomography(断層写真)//<接頭辞付き>atom(原子)/custom(習慣←囲うtom)/costume(衣装)/customer(客←決った寸法で注文)/estimate(見積る←宝石を切る、tom→tim)/esteem(尊重する)/anatomical(解剖の)/entomology(昆虫学←刻みのある虫)cf insect(in内に+sect切る)

(2013.2.10 記)