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イッセイエッセイ

767号 時のなごり

2013年01月17日(木)

 「日の名残り」はカズオ・イシグロが書いた小説の題名である。映画化もされており、去年のことであるがテレビで見た。仕事一筋で生きてきた老執事を主人公に回想の形をとった小説である。いざというときの決断にいま一つ踏み込めず、世間並みの恋愛の機会も失った主人公の悲哀と後悔が映画のシーンにも流れていた。
 この小説は本屋さんの文庫本の書棚でよく目にしたのだが、背表示に印刷されてある書名を、自分勝手に「年の残り」と誤って憶えていた。
 これも昨年のことであったが、作家の津村節子さんと越前陶芸村で懇談をする機会があった。新潮社の編集長も同行されており、そのとき同社編集の月刊誌「波」に津村さんが回想的な随筆を毎月連載されていることを知った。そのときだったか頂いた同誌十二月号のものには「ある町の盛衰」と題する随筆であった。かつて機業の町として活気をほこった勝山市のこと、勝山市で急死されたお父さんのことを描いた「雪の柩」のこと、また勝山精華高校(南高校)の卒業生が吉村さんが亡くなるまで毎年お手伝いさんとして来ていたこと、そして津村さんは同校の校歌を作詞して三木たかしさんに作曲をしてもらったこと、しかし今年限りでこの校歌が歌われなくなること、こうしたことが随筆には書かれていた。校歌が歌えなくなるのは残念だということは、当日の陶芸村の席でも随筆の文章と同じ口調でお話しになった。
 そして今年(2013年)1月号の随筆(第十六回)は「古窯の村」である。昨秋の陶芸村の集まりにおいては、午後から小説「炎の舞」にまつわる津村先生のトークショーが文化交流会館で催され、私も開会のあいさつをした。今回の随筆ではその時の様子や昔の想い出、久し振りに訪れた陶芸村が別の土地と思うほどに変ってしまっていることなどが語られている。
 そして津村節子さんのこの随筆には、『時のなごり』という毎号共通の題名がつけられていたことに気づいた。

(2013.1.14 記)