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イッセイエッセイ

701号 知らぬこと

2012年04月06日(金)

 昨日は県立大学の卒業式があった。学生代表に学長から授与される学位状がステージ上の自席から目に入るのであるが、記されている卒業生の生年はみな平成元年であった。
 彼らは昭和という年代を人生として知らないのだと思った。終戦の年に生まれた自分が戦争を知らないのと同じだとも思った。自己の体験から正確に言うならば、知らないのではなく、分らないということなのである。生まれる前のことでも昔の人からは聞けるけれども、聞いたり読んだりしても実際は全くわからないのである。
 自分が物ごころついたとき終戦からまだ十年しかたっていなかったこと、大学を卒業した時でさえ二十余りしかたっていなかったこと、こうしたことを改めて考えるとき、戦前が自分にそんなに近い時代だったとはとても信じられないのである。なぜそういう感覚でしかなかったのか、今の歳になってはじめて妙な心持ちがするのである。
 自分の経験してきた最近の一昔前のことと、皆目経験のない十年前のこととは、その時点において同じ遠さの過去であっても全く理解の意味が異なるのである。
 したがって若い人達はきっと、昭和の昔もずっと今のようだったと思っているのではないだろうか。その間にかつての戦争のようなものがあった訳でもないのだが、われわれの気持ちにおいては、平成の時代と昭和の時代とは極めてかけ離れてしまっている。

 

(2012.3.25記)