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イッセイエッセイ

684号 子供用の英語(「たのしい川べ」から)

2012年02月28日(火)

 イギリスの作家ケネス・グレーアムが1908年に書いた「たのしい川べ」(石井桃子訳)は、子供たちに向けた物語と思われる。
 岩波少年文庫でも小学生上級向けの読み物として分類されている。E・H・シェパードのさし絵だって、いかにも児童の好みの図柄になっている。
 しかし、数年前に出版100年を記念して出されたハードカバー版(パラツォ社)をためしに見ると、英語の原文としては難しいわけではないが、「学校文法」としての見方をした場合には、そんなに易しくはない。
 以下は、最終の12章(The Return Of Ulysses 英雄の帰還)から、適宜抜いたものである。一覧あられたい。

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あたりが暗くなりはじめたころ、
When it began to grow dark,(第三文型)

そのうち、ネズミが警戒するように「早くきたまえよ」とよぶ声がしました。
Then he heard the Rat call out warningly.‘Come on Toad!’(第五文型、感覚動詞)

うしろから敵がきたと思いこんだアナグマは・・・
The Badger thought they were being attacked from behind,(受動態、進行形、複文)

「もうそろそろ屋敷の下近くまできたはずだ。」
‘We ought by now to be pretty nearly under the Hall’(助動詞)

さて立ち上がってみますと、そこは配膳室です。
They found themselves standing in the pantry.(第五文型、進行形)

なんというさわぎだ。
‘What a time they’re having.’(感嘆文)

「やつをとっちめさせてくれ!」歯ぎしりしながら、ヒキガエルがつぶやきました。
‘Only just let me get at him!’muttered Toad, grinding his teeth.(第五文型、使役動詞)

「わたくしに歌を一つうたわせていただきます」と、さっきの声がつづけました。「これはヒキガエルを題材として、わたくしのつくったものであります。」
‘Let me sing you a little song’went on the voice,‘which I have composed on the subject of Toad’(命令形、複合した第四・第五文型、関係代名詞)

「もう一つたのみがあるんだ」
‘Now, there’s just one more thing I want you to do.’(第五文型、不定詞)

「もしきみがそうしたければ、こいつらに一つ、こつんとくらわせてくれたまえ・・・」
‘And then you can give them a licking apiece, if it’s any satisfaction to you,・・・’(第四文型)

「きみたちがしたけりゃ、それは、しなくちゃいけないのさ。」
‘You wish it done, and it shall be done.’(意思未来、第五文型)

「どうかわかってくれたまえ、おそかれ早かれ、きみは心を入れかえなくっちゃならないんだ」
‘You know you must turn over a new leaf sooner or later.’(複文)

「それから向こうからおいでになるのが、おとうさんのよくお話しになる有名なモグラさんですよ!」
‘And yonder comes the famous Mr. Mole, of whom you so often have heard your father tell.’(第五文型、関係代名詞、現在完了)

「まったく、だれにでもたのめるといいんだがね」
‘I wish I could say the same of everyone I know’(仮定法)

これはまたなんというキイキイ、キャァキャァというさけび声が、そこらじゅういっぱいになったことでしょう!
What a squealing and a queaking and a screeching filled the air!(感嘆文)

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 シオドア・ルーズベルト大統領や家族の子供たちが、グレーアムの愛読者であったと伝えられており、本書をアメリカでもぜひ出版させたいという大統領の話が残っている。またこの物語の一部を「クマのプーさん」の作者A・A・ミルンは、劇化して上演している。
 イギリス児童文史上、ファンタジーの先駈けともいえる本書は、子供向けの動物物語の形式をとっているが、奥深きのある行きとどいた文体と内容をもっている。
 以下さらに、その他の章から適宜抜いたものを掲げてみたい。

(2012.1.2記)

(1章 The River bank 川の岸)
「まだだめだよ、きみ、すこしけいこしてからにしたまえ。見かけほどはやさしくないんだよ」(命令、現在完了、複文、第2文型)
‘Not yet ,my young friend,’he said ― ‘wait till you’ve had a few lessons. It’s not so easy as it looks.’(1-23①)38 ― (原本の章・頁数 段落の部分)邦文の頁数

(2011.12.1記)

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(2章 The Open Road 街道)
 ヒキガエルは欠点はあるが、いい性格だということを微妙に描写。
 「あんな気持ちのいい動物はないさ」ネズミは答えました。「とても罪がなく、おひとよしで、気持ちがやさしいんだ。あんまりりこうとはいえないけれどね―われわれは、みんながみんな、天才というわけにはいかないんだからね。それは自慢や、うぬぼれやのところもあるさ。でも、とにかく、いいところがあるんだ、ヒキガエルというやつは。」
 ‘He is indeed the best of animals,’replied Rat.‘So simple, so good-natured, and so affectionate. Perhaps he’s not very clever ― we can’t all be geniuses; and it may be that he is both boastful and conceited. But he has got some great qualities, has Toady.’(2-30①)49 (性質をあらわす形容詞、代名詞heが固有名詞Toadyに先行している形)

「ちょっと待ってくれたまえ。」ネズミはムギわらをかみながら、ゆっくりいいました。「なにかきみ、いま『ぼくたち』だの、『出かける』だの、『きょう』だのっていうようなことをいまいってたようだがね。」

 ‘I beg your pardon,’said the Rat slowly, as he chewed a straw,‘but did I overhear you say something about “we”, and “start”, and “this afternoon?”’(2-34①)56(第三文型、第五文型)

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(3章 The Wild Wood 森)
ネズミ君の決心した一つひとつの動作を逐語的に描く。look→stand→enter→strap(つける)→shove(さしこむ)→take up(手にとる)→set off(出かける)
The Rat looked very grave, and stood in deep thought for a minute or two. Then he re-entered the house, strapped a belt round his waist, shoved a brace of pistols into it, took up a stout cudgel that stood in a corner of the hall, and set off for the Wild Wood at a smart pace.(3-52②)86

(2011.10.12記)

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(4章 Mr Badger あなぐま氏)
アナグマ氏は、いつも落ち着いた態度であり、いっさい他の者の話にああだこうだと批判はしない。
,and he did not seem surprised or shocked at anything, and he never said,‘I told you so,’or,‘Just what I always said,’or remarked that they ought to have done so-and-so, or ought not to have done something else. The Mole began to feel very friendly towards him.(4-65①)108(第二文型)

(2011.10.21記)

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(7章 The Piper At The Gates of Dawn あかつきのパン笛)
やがて本流に出たので、ボートを川上に向け、・・・
The main river reached again, they turned the boat’s head upstream,(7-126①)211
(reached againとは、The main river <being> reached <by them> againであり、分詞構文の受動態であって省略形という、日本人には極めてむずかしい受験英語の文法用である。)

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(8章 Toad’s Adventures ヒキガエルの冒険)
さて、この年とった獄吏には、ひとりのむすめがありました。気持ちのいい、しんせつな子で、父親のしごとも、やさしいことは、ちょいちょいてつだっていました。
Now the gaoler had a daughter, a pleasant wench and good-hearted, who assisted her father in the lighter duties of his post.(8-131①)217(関係代名詞)

ある朝、むすめは、なにか考えごとがあるらしく、返事も上のそら、せっかくのヒキガエルの気のきいた警句や、すばらしい文句にも、ちゃんと気をつけていないようでした。
One morning the girl was very thoughtful, and answered at random, and did not seem to Toad to be paying proper attention to his witty sayings and sparkling comments. (8-134①)224(seemにtoが2つ付いている。)

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原文は「The Wind in the Willows」by Kenneth Grahame;
illustrated by Robert Ingpen.(Palazzo edition LTD. in 2008)
日本語訳は「たのしい川べ」ケネス・グレーアム作、さし絵 E・H・シェパード
(石井桃子訳 岩波少年文庫 2002年)

(2011.12.23記)

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 以上の英文の読み物からわれわれが実際的に考えてみると、学校においてこれから考慮すべきことは、英文法を小出しにして教えるのは効果的でないということである。順序立ててやり過ぎたりするのは、一見子供には親切なようでも部分的になり実際的でないということである。日本人の目からみて英文法を体系化したつもりで、容易なものから難しいものへと進めることは、ある程度は良いかもしれない。しかし、それも程度ものであると考えるべきである。
 日本人でも英米人でも、母国語の基本を小学生ごろまでに習得するプロセスは、それぞれの言語の学問上で作られた文法どおりでは決してないからである。
 だから子供用の物語には、文法体系からすると教えるのに困るような受身形も仮定法も完了も、また五文型や複文も、その他平気でいろいろと構わず出てくるわけである。本当のところそれは問題でも何でもないからである。
 したがって、英語教育においても、英文法の全体系を早期の段階で生徒にわかりやすい例で示して、やさしい絵本を読んだり、英語の歌を聴けるようにし、子供がすこし説明さえ受ければ、大体そういう事かと分かるようにしてしまうのが望ましいのである。
 このことは、授業のたびごとに次々と突然に文法事項が示され、子供たちが先の見えない不安感を持ち、英語嫌いになることを防ぐ大事なポイントであると思われる。
 子供たちと一緒の楽しいクリスマスの歌、たとえばI wish you a Merry Christmas、これをまだ文法で教えていないレベルだから教えないし歌えないと、先生がもし考えたとしたら馬鹿げた話になるだろう。 

(2012.1.2記)