西川一誠後援会サイト

イッセイエッセイ詳細

イッセイエッセイ

683号 英語の綴り、発音、文法の変化(歴史)

2012年02月27日(月)

(1) 我々が小学校の高学年で習ったローマ字は、日本語の音とほとんど似ており、母音の綴りと発音との間には違いというものは原則なかった。
 これが中学校に入って英語を習い始めたとたん、アルファベットの母音と発音がばらばらになった感じになり、戸惑うと同時に学習のつまずきにもなったように思う。
 nameがなぜナーメではなくネイムか、oneがオネではなくなぜワンなのか、といった類のことだ。そして先生はそのことについて何の説明もせず、そう言うものだというように進んでゆき、不完全な理解のまま終わることになった。しかし何故そう発音するのか、文字面から発すべき音の予測がつきにくく、発音の基本についてまとまった観念を持つことがなかったことを思い返す。
 こうした英語の教科としての基本的な問題については、学校教育の場で一つ上のレベルの立場に立った知識をもとに教える必要がある。そのためには先生側の研究がなくてはならない。
(2) 寺澤盾著の「英語の歴史」(中公新書 2008年)によると、綴り字と発音のズレ、その中でも母音のズレについては、学問的には「大母音推移」(Great Vowel Shift)と呼ばれ、中英語期(12c~16c)であるチョーサーの時代の1400年頃から、およそ300年にわたって「強勢を伴った長母音」に大規模な音の変化が始まったというのである。
 現代英語の綴り字はこの大変化以前の発音を忠実にあらわしているということだ。15世紀末には印刷術の導入があったため、文字の方は今の綴りの形にほぼ固定化してしまったということである。
 口腔内を真横から見て、舌の高められる音の位置を示すと(以下アバウトな言い方をする)、「ア」を底の頂点とする「イ」「ウ」の逆三角形に表すことができ、前方側は下からア→エ→イと上の方の歯先に向かい、奥の側はア→オ→ウと上に向う形になっている。
 各音がこの元の場所から、それぞれ一段ずつ上の方に移って(引っぱられ or 押し込まれ)、もとの「i:」と「u:」はもうこれ以上に高舌化できないので、それぞれ「ai」、「au」と二重母音化して長母音の系列から外れてしまった(この本には説明がないが、他の音にも二重母音化が起こっている)。
 ただし本書を読む限りでは、こうした長期的な現象がなぜ生じたかの原因は書かれていない。言語一般に共通な傾向なのか、外来的要因か、あるいは人類学的ないし気候学的な説明のいることなのか(?)。
 <母音変化>      <用例>
〔i:〕→〔ai〕     child, nice, wise
〔e:〕→〔i:〕     keep, see, belief
〔ɛ:〕→〔e:〕→〔ei〕 break, great, steak
      \_〔i:〕 meat, sea, cheap
〔a:〕→〔ɛ:〕→〔ei〕 hate, name, take
〔u:〕→〔au〕     cow, mouse, tower
〔o:〕→〔u:〕     food, moon, tooth
〔⊃:〕→〔o:〕→〔ou〕goat, home, stone
 なお、cook, foot, shookあるいはflood, bloodなどは、その後さらに、短母音〔u〕あるいは他の音「ʌ」に変化したらしい。この現象は現在でも進行的に起っており、それも一斉に起こるのではなく語から語へと徐々に拡がり(語彙拡散)、また二つの音がしばらく共存すること(共時的変異)もあるようだ。
(3) 英語における「字」と「音」のずれは一般に大きい(以下も前掲書からの要約)。
 たとえば〔g〕の音は、g(game)、gh(ghost)、gu(guest)で表記されている。また〔k〕の音は、c(cool)、ch(choral)、ok(sick)、k(keep, week)で表記される。
 さらに長母音〔i:〕にいたっては、ae(Caesar)、ay(quay 埠頭)、e(she)、ea(sea)、ee(see)、ei(seize)、eo(people)、ey(key)、i(machine)、ie(believe)、oe(amoeba アメーバ)とさらに多種である。
 この逆の一つの文字が多くの発音に分かれることもあって、ghの綴りは、〔無音〕night、〔g〕ghost、〔f〕tough、〔p〕hiccough(しゃっくり)の音を表わす。
 またouの綴りは〔ʌ〕tough、〔⊃:〕ought、〔u:〕through、〔au〕outと多様な母音になる。
 (4) 英語に類義語(synonym)がなぜ多いか。たとえばほぼ同義のask, inquire, question / help, aid, assist /など。
 それは11世紀のノルマン征服以降はフランス語、16~17世紀のルネサンス期はラテン語から、英語への借用が行われた結果である。
 本来語は具体的で直接的な意味、外来語は抽象的で堅苦しいなどの使い分け・ニュアンスが出る。
 一方、借用語の増大により類義表記は豊かになったが、関連語でありながらそれが語形に反映されない語群が多数できたという問題がある。たとえばearth, global / ten, decade / sea, marine / sun, solar などの例。
  さらにまた本来語の造語能力が衰退し、派生語力や複合語力が弱くなった結果、近代英語では、たとえば名詞も動詞も同形(例えばlove)が増え、同じ形のまま品詞転換する「ゼロ派生」が盛んになった。たとえばeye,dogなど。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 このように一冊の教養的な新書から、英語教育と学習に役立つ知識と情報が得られた。
 これを授業のバックグランドとして利用しない手はないのである。英語以外の学科では、その科目に係る歴史学がおのずと学習の中にとけ込んで教えられたりする。しかし英語は実技的な性格もあるためか、その方面の教育が弱いように思える。
 英語の歴史を知ることは、今われわれが習得するのに苦労している英語の発音、語源、文法などについて、有効な理解の手段を与えてくれるものと思う。

 

(2011.12.18記)