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イッセイエッセイ詳細

イッセイエッセイ

665号 英語教材としての詩

2011年11月21日(月)

 英語教育を単なるグローバル・コミュニケーションの手段、道具としてだけ実行するのは適当でない。その理由はここに記さない。
 「イギリス名詩選」(平井正穂 編)(ワイド版岩波文庫30 1991年)から、各詩のさわりの部分を抜いた(648号参照)。
 日本人として理解し記憶できそうな、雅語の少ない比較的口語体のstanza(連)の部分である。英語教育の場における名句の引用や励ましの言葉は有用であろう。
 邦訳および大部分の脚注は、平井正穂先生のものである。なおrhyme(押韻)とみられる単語に、印を勝手に付した。

○「仕方がないんだ」(1594年)             マイケル・ドレイトン(1563―1631年)

Shake hands for ever, cancel all our vows(),
And when we meet at any time again(),
Be it not seen in either of our brows() 
That we one jot(ワズカニ) of former love retain(持ち続ける ●).
               (st.Ⅱ) 

さ、握手しておさらばしよう、誓いも綺麗に忘れよう。
もし、いつの日かばったり出会うことがあっても、
顔のどこかに昔の後腐れなんか
微塵も残ってないように、お互いに気をつけたいものだ。
               (第二連)

○「静かな想いにさそわれて(30番)」(1609)        シェイクスピア(1564―1616年)

When to the sessions(法廷(courts)) of sweet silent thought()
I summon up remembrance of things past(),
I sigh the lack of many a thing I sought(),
And with old woes(悲哀) new(afresh) wail(悲シム) my dear time’s waste();
               (st.Ⅰ)

静かな想いにさそわれて、私が心の奥深く
過ぎ去ったことどもをあれこれと思い出していると、
かつて求めたものが数多く見当たらないのに、溜息が出てくる、
昔の苦悩が今さらのように蘇り、時の空しさが身にしみてくる。
               (第一連)

○「波が浜辺に打ち寄せるように」(ソネット集60番)         上記同

Like as the waves make(   進ム)towards the pebbled shore()
So do our minutes hasten to their end();
Each changing place with that which goes before(),
In sequent toil(苦労) all forwards do contend(● 争ウ)
               (st.Ⅰ)

波が浜辺にさざれ石めがけて打ち寄せるように、
人間の命も時々刻々その終わりにむかって急いでゆく。
一瞬一瞬がその前の一瞬と交替し、
次々に前へ前へと争って進んで行く。
               (第一連)

○「人間の成長」(1640)の一部から            ベン・ジョンソン(1572―1637年)

      A lily of a day()                それよりも、一日の命を生きる
      Is fairer far in May(),             五月の百合の方が見事なのだ、
   Although it fall and die that night()―   たとえ一晩で(しぼ)んで死んでゆくにしても、・・・
   It was the plant and flower of Light().   永遠の光を宿す草花であったからだ。

○「栄光の空しさ」(1659)              ジェイムズ・シャーリー(1596―1666年)

The glories of our blood and state() 
 Are shadows,not substantial things();
There is no armour against fate();
 Death lays his icy hand on kings():
  Sceptre(笏[sept∂r]) and Crown() 
  Must tumble down(),  
And in the dust be equal made() 
With the poor crooked(曲ッタ[kruk]) scythe(草刈鎌[sαi∂]) and spade().
               (st.Ⅰ) 

血筋や地位のもたらす栄光などは、
 単なる影にすぎず、実体などというものではない。
堂々たる(よろい)で身を守っていても、運命には逆らえないのだ。
 王様だって氷のような手をもった死神に見舞われる。
   王笏(おうしゃく)や王冠を誇った者も、
   必ず真っ逆様に転落し、
土の中に入ってしまえば、曲がった鎌や鋤を使って
野原で働いていた農民と同じ身分になってしまうのだ。
               (第一連)
 

○「隠栖の賦」(1709)               アレグザンダー・ポウプ(1688―1744年)

Happy(<is>)the man,whose wish and care()    (わず)か数エーカーとはいえ、父祖伝来の
A few paternal(父方譲リ) acres bound(● 限ル),          土地に住み、収穫を夢みて耕し、
Content(喜ンデスル) to breathe his native air()      生まれた郷土の大気を心ゆくばかり吸う――
   In his own ground()                こういう人こそ幸福な人なのだ。
               (st.Ⅰ)                             (第一連)

○「ポプラの野原」(1785)               ウィリアム・クーパー(1731―1800年)

The poplars are fell’d, farewell to the shade()
And the whispering sound of the cool colonnade(並木 ○):
The winds play no longer and sing in the leaves(),
Nor Ouse on his bosom(surface) their image receives(反映スル ●).
               (st.Ⅰ)

ポプラの木立が倒され、その涼しい木陰も、
葉擦れの音も、昔の思い出になってしまった。
もう風が木の葉と戯れ、快い響きをたてることもなくなり、
ウーズの川面にその姿を映すこともなくなってしまった。
               (第一連)

○「幼児の喜び」(1789)                ウィリアム・ブレイク(1757―1827年)

‘I have no name:              「僕には名前がないんだ。
I am but two days old.’          生まれて二日しかたってないからかなあ」
What shall I call thee?          なんて呼んでほしいの?
‘I happy am,                「ぼく倖せなんだ、
Joy is my name.’              ジョイ(喜び)って名前がいいよ」
Sweet joy befall(<happen to>) thee !         そうね、素的なジョイがお前の上にありますように!
               (st.Ⅰ)                              (第一連)

○「小さな願い」(1786)               サミュエル・ロジャーズ(1763―1855年)

   A Wish
Mine be a cot beside the hill();          
A bee-hive’s  hum shall soothe my ear();    
A willowy brook that turns a mill(), 
With many a fall shall linger near(). 
               (st.Ⅰ)
注) mine be/I wish my cot be
      fall せせらぎ

 私の願いは、丘の傍の小さな田舎家に住むことだ。
そこでは、蜜蜂の静かな唸り声が私の耳を慰めてくれ、
水車をまわす小川のほとりでは柳がそよぎ、
せせらぎの音が絶えずあたりに漂っていたら、と思う。
               (第一連)

○「発想の転換をこそ」(1798)           ウィリアム・ワーズワス(1770―1850年)

   The tables turned
Up ! up ! my Friend, and quit your books();
Or surely you’ll grow double():
Up ! up ! my Friend, and clear your books();
Why all this toil and trouble() ?
               (st.Ⅰ)
The sun,above the mountain’s head(),
A freshening lustre mellow() 
Through all the long green fields has spread()
His first sweet evening yellow().
               (st.Ⅱ) 
Book! ’tis a dull and endless strife():
Come,hear the wonderful linnet(),
How sweet his music ! On my life(),
There’s more of wisdom in it().
               (st.Ⅲ)                            
注)His/sun   On my life/indeed
  double/doubled 折リ曲ル
  freshing mellow lustreが正しい順(名詞の前後に形容詞はミルトン風)

さあ、君、立ち上がるのだ! 君の本を捨てるのだ!
さもないと、君の腰はほんとに曲がってしまうぞ。
立て、立ち上がるのだ! もっと明るい顔をしたらどうだ。
なぜそんなに刻苦勉励して本を読むのだ?
               (第一連)

山の頂きにさしかかった太陽が、
(さわ)やかで柔和な光を広々とした
緑の野原一面に(みなぎ)らせ、
夕陽特有の黄金色ですべてを染めている。
               (第二連)

なるほど、本か! 本を読むのは骨が折れるし、きりがない。
それよりも外に出てきて紅ひわの鳴き声を聞くがいい、―
その歌声のなんと快いことか! 誓ってもいい、
本に書かれている以上の叡智がそこにある。
               (第三連)

○「虹」(1802)                               上記同

My heart leaps up when I behold       私の心は躍る、大空に
  A rainbow in the sky :              虹がかかるのを見たときに。
So was it when my life began,         幼い頃もそうだった、
So is it now I am a man             大人になった今もそうなのだ、
So be it when I shall grow old         年老いたときでもそうでありたい、
  Or let me die!                    でなければ、生きている意味はない!
The Child is father of the Man :        子供は大人の父なのだ。
And I could wish my days to be        願わくば、私のこれからの一日一日が、
Bound each to each by natural piety(敬虔).    自然への畏敬の念によって貫かれんことを!

○「水仙」(1807)                              上記同

I wander’d lonely as a cloud()
That floats on high o’er vales and hills()   
When all at once I saw a crowd(),
A host(多数) of golden daffodils(),
Beside the lake, beneath the trees()    
Fluttering and dancing in the breeze().
  
谷を越え山を越えて空高く流れゆく
白い一片の雲のように、私は独り悄然(しょうぜん)としてさまよっていた 。
すると、全く突如として、 眼の前に 花の群れが、
黄金色に輝く(おびただ)しい水仙の花の群れが、現われた。
湖の岸辺に沿い、樹々の緑に映え、そよ風に
 吹かれながら、ゆらゆらと揺れ動き、躍っていたのだ。

 

○「学者」(1837)                       ロバート・サウジー(1774―1843年)

My days among the Dead are passed;
Around me I behold,
Where’er(Whereever) these casual eyes are cast, 
The Mighty minds of old:
My never-failing friends are they,
With whom I converse day by day.
               (st.Ⅰ)

私は多くの故人に囲まれて毎日の生活をおくっている。
あたりを何気なしに見まわしただけで、
忽ち彼らの姿が目につく。
いずれも昔の偉大な先達で、
親しい、信頼のおける人たちばかりだ。
私は毎日彼らと話を交わしながら暮らしている。
               (第一連)

○「昔の懐かしい顔」(1798)               チャールズ・ラム(1775―1834年)

I have had playmates, I have had companions
In my days of childhood, in my joyful school-days;
All,all are gone, the old familiar faces.
               (st.Ⅰ)
       ・
       ・
I loved a Love once,fairest among women:
Closed are her doors on me, I must not see her―
All,all are gone, the old familiar faces.
               (st.Ⅲ)

私には遊び仲間もいたし、親しい友だちもいた、
子供の頃の、楽しい学校時代の頃の、話だが、―
でも、もうみんな消えてしまったのだ、あの昔の懐かしい顔は。
               (第一連)
       ・
       ・
私はある時恋をした、―相手は凄く美しい人だった。
だが、彼女の家の扉は閉ざされ、会うことも許されなかった。
でも、もうみんな消えてしまったのだ、あの昔の懐かしい顔は。
               (第三連)

○「僕たちが別れたとき」(1816)       ジョージ・ゴードン・バイロン(1788―1824年)

When we two parted()           涙を流して黙って
  In silence and tears(),            あの時僕たち二人は別れたが、
Half(殆ド) broken-hearted(),           これから何年か離ればなれになるという思いに、
  To sever(別レル) for years(),             悶々の情に苦しんだ二人だった。
Pale grew thy cheek and cold(),     君の頬はいつのまにか(あお)ざめ冷たくなっていた、
  Colder thy kiss();                君の接吻はもっと冷たくなっていた。
Truly that hour foretold()          思えばその別れのひとときが、
  Sorrow to this()!                今の悲しみを予告していたのかもしれぬ。
               (st.Ⅰ)                            (第一連)

○「つれなき美女」(1820)                   ジョン・キーツ(1795―1821年)

 ‘I met a lady in the meads(meadows),
 Full beautiful ― a fairy’s child,
Her hair was long, her foot was light,
 And her eyes were wild.
     ・    (st.Ⅳ)
     ・

 「私は緑の草地で一人の美女に出会った、
 その美しさは比類なく、そうだ、まさに妖精の娘といえた。
その髪は長く垂れ、その足は軽やかで、
 その目は(あや)しげな光を(たた)えていた。
     ・    (第四連)
     ・

○「富は問題にならぬ」(1841)              エミリ・ブロンテ(1818―1848年)

Yes,as my swift days near their goal(),   
‘Tis all that I implore(懇願スル ●) ―            
Through life and death,a chainless(束縛されない) soul(),  
With courage to endure()!             
             (st.Ⅲ)            
(注)’Tis = it is  it/to endure

嘘ではない。―光陰矢の如しで、どうやら私の
終りも近い。そこで私が求めるものは、ただ、
何ものにも囚われない一人の人間として、勇気をもって、
生に堪え、死に堪えてゆく、ということだけだ!
                   (第三連)

○「私の魂は怯懦(きょうだ)ではない」(1846)                      上記同

No coward soul is mine()
No trembler in the world’s storm-troubled sphere():
I see Heaven’s glories shine()
And faith shine equal,arming(武装シテ) me from fear().
               (st.Ⅰ)
      ・
      ・
Though earth and man were gone()
And suns and universes ceased to be()
And(<if>) thou were left alone()
Every existence would exist in thee().
              (st.Ⅵ)

私の魂は怯懦ではない、
この世に吹きすさぶ嵐に(おのの)くような、そんな魂ではない。
私には、天の栄光の輝きと、それに劣らぬ人の信仰の輝きが、
はっきり見えている、―私には何の不安もない。
              (第一連)
       ・
       ・
地と人とは過ぎ去るかもしれない、
日月星辰も宇宙も姿を消すかもしれない、
だが、汝さえ後に残るならば、
すべての存在は汝により存在し続けるはずだ。
              (第六連)

○「思い出」(1854)                    ウィリアム・アリンガム(1824―1889年)

Four ducks on a pond(),                池には四羽の鴨、
A grass bank beyond(),                 彼方の岸辺には緑の草、
A blue sky of spring(),                  春の青空、
White clouds on the wing() ;              流れる白雲 ―
What a little thing()                    とるにたらぬ風情ながら、
To remember for years() ―               なぜか年がたつにつれ思い出す、
To remember with tears() !              涙とともに思い出す!
(注)全体31語、日本の和歌を意識したといわれている(脚注から)。
       詩趣は十分ならずか。

○「突然の光」(1870)        ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(1828―1882年)

 I have been here before(),              
  But when or how I cannot tell():           
 I know the grass beyond the door(),         
  The sweet keen smell(),                
The sighing(ソヨギ) sound, the lights around the shore().
               (st.Ⅰ)                                  

 僕は以前ここに来たことがある、
  だが、いつどんな風にして来たのか、はっきりしない
 扉の向こうに草地があり、
  甘く、むせるような香りが漂い、
そよ風が(ささや)き、灯が岸辺に(きら)いたのを覚えている。
               (第一連)

○「五月に」                   ジェイムズ・トムソン(1834―1882年)

The church bells are ringing():
 How green the earth,how fresh and fair()!
The thrushes are singing():
 What rapture(歓喜) but to breathe this air()!
               (st.Ⅰ) 

ああ、教会の鐘が鳴っている・・・
 この緑の大地のこの鮮やかさ、美しさはどうだ!
(つぐみ)の群れが鳴いている・・・
 この大気を吸っただけで、万物は恍惚となっている!
               (第一連)

○「戦没者を悼む」(1914)               ロレンス・ビニヨン(1869―1943年)

They mingle not with their laughing comrades again;
They sit no more at familiar tables of home();
They have no lot in our labour of the day-time;
They sleep beyond England’s foam().
               (st.Ⅴ)

彼らは、再び仲間と談笑の時をすごすこともなく、
家庭の団欒(だんらん)の食卓に着くこともなく、
我々の昼間の労働に伍することもなかろう。
彼らは眠っているのだ、―イギリスを離れた海の彼方に。
               (第五連)

○「時よ、老いたるジプシーよ」(1917)       ラーフ・ホジソン(1871―1962年)

Time, you old gipsy man(),                  時よ、老いたるジプシーよ、
Will you not stay(),                        とどまってくれないか、
Put up your caravan()                     お前の幌馬車をとめてくれないか、
Just for one day()?                       せめて今日一日だけでも?
               (st.Ⅰ)                              (第一連)

○「経験についてのリポート」(1929)        エドマンド・ブランデン(1896―1974年)

I have been young, and now am not too old();
And I have seen the righteous forsaken(縁ヲ断ツ ●)
His health, his honour and his quality taken().
 This is not what we were formerly told().

I have seen a green country, useful to the race(),
Knocked silly with guns and mines(地雷), its villages vanished(),
Even the last rat and lastkestrel(チョウゲンボウ(ハヤブサ))banished()
 God bless us all, this was peculiar grace().
        ・
        ・
Say what you will, our God sees how they run().
These disillusions are His curious proving()
That He loves humanity and will go on loving();
 Over there are faith, life, virtue in the sun().
               (st.Ⅰ  st.Ⅱ  st.Ⅳ)

私はまだ若かった、今でもそんなに年老いてはいない。
そんな私も、正しい人間が世間から見棄てられ、
健康も名誉も才能も台なしにされたのを見てきた、―
こんなのは、以前教えられたこととは違っていた。

土地の人には有難い、緑の国土が、
愚かにも戦火によって破壊され、村も跡かたなく消え、
鼠はおろか鷹さえもすべて姿を消したのを見てきた、―
ああ、これこそが神のくすしき恩寵だったのだ。
        ・
        ・
人が何と言おうと、これが神の見そわす人間の世界だ。
これらの幻滅を通じ、神は、自分が人間を愛し、今後とも
愛し続けるけることを、不思議な形で証明しておられるのだ。
これらを超えた所に、燦々(さんさん)と輝く信仰と命と善があるのだ。
               (第一連、 第二連、 第四連)

○「古きものを愛せよ」

  古きものを愛せよ、
   使いこんだ包丁、傷の残る仕事机、父祖の使った農具。
  古きものを愛せよ、
   谷川を汲みつづける水車、線路を支える石畳、事務所の灰色の階段。
  古きものを愛せよ、
   懐かしい調べを、死んだ俳優たちの映画を、意味を失った言葉を。
  古きものを愛せよ、
   古くなる自分自身を、そして、ますます古びてゆく未来を。 

(2011.10.23記)