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イッセイエッセイ

664号 キーワードの語源と発展

2011年11月20日(日)

 ある言葉の起源や発展の経路は、調べてゆくとかなり分かるところもあるが、きりがないようだ。この十月のラジオ第二では「私の日本語辞典 古代語を探る旅」というシリーズを放送していた。蜂矢真郷先生(中部大)という碩学が、日本に古来からある簡単な言葉をもとにして語の成りたちや他の言葉への広がりの系統について実例をあげて解説をしていた。たとえば「め(目)」、「て(手)」など最も根本的な一語の意味、そして意味の分化などについての話なのである。説得力のある結論にたどりつくために、様々な古代の文献を渉猟して、学問的な全体性をもった研究にしなければならない。観念的な速断は学問として禁物のようだ。
 シリーズの最終回の例であるが、「し」というのは風に関係した言葉らしく、あらし、つむじ等の語につながっている。信濃、豊科なども風に関係ある地名ではないかという(シナ、となると階段状をあらわす意味とも関連するかもしれぬと言う)。
 このような地名についてアナウンサーの疑問に対しても面白い解説があった。
 わが福井県の「敦賀」は、なぜ「つるが」であり、また「敦」の字が当てられているのはなぜか。
 解説によると「つるが」の前形は「つぬが」であり(これは一般にも知られている)、「敦(とん)」の音が「つる」と結びついたという。ちなみに静岡の「するが」も同じ傾向の「駿」の音が当てられて「駿河」となっている。「敦」の字が当てられている証拠は、すでに奈良時代の文献にあるという。能登の「わくら」は「わくうら」であり、温泉の湧く浦を意味し、同音の母音が重なるのは平安時代に避けられていて(現代は気にしないが)、「わくら」に短縮したのではという。

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 さて外来語、とくにカタカナ英語は、最近のグローバル化により、飛躍的にこの二十年あまりの間、物の名称や抽象用語にも用いられて拡がっているように思う。日本語にないニュアンス(この語だって)を持った言葉が重宝され、これによって文章が説得力をもつかのように見えてくる。システム、コミュニケーション、ネットワーク、リスクなど最近どこかで使ったような気がするし、今日の新聞をみても、ルール、メリット、スピード etcといった言葉が目に入る。
 レイモンド・ウィリアムズ(1921-1988年)という人の書いた「キーワード辞典」(初版1976年 改訂版1983年)(椎名美智他訳 平凡社 2011年6月)には、英国人ならずとも我われも使うことが多い130語あまりのキーワードがとりあげられている。これらの重要語の由来、意味の発展などを通じ、この種の語彙が、いかに複雑でややこしく、また政治的な価値観が入りこんでいるかなど問題を意識させる形で歴史的意味論を展開している。
 以下その中で、地方自治に関係する語を代表的にいくつかピックアップして、著者の言うところを要約してみたい。

【City:都市・都会】
 13世紀から英語にあるが、田舎(Country)と区別して都会をさす用法は16世紀以降のもの。19世紀まではたいていの場合、首都ロンドンをさすのに決まっていた。現代ではしだいに抽象的になって、特定の場所や行政区というよりも「形容詞」として用いられ、「大都会の生活を総括的に表現する語となってきた」。 注)例えばcity lifeなどを念頭においているのだろう。

【Country:国・田舎】
 現代英語では大ざっぱにいって「生まれた国」と「その一部をなす田園農村地帯」の二つの異なる意味を持つ。語源は中世ラテン語の「向こう側にある土地」から来ている。Country Pumpkin(田吾作)は、17世紀になって首都の人々が田舎者に対して使った俗語。「生まれた国」の方は、nation(抽象的)、state(権力構造的)よりも肯定的な連想をもつ語である。Countryは政府から区別されており、例えばgoing to the countryは、国会を解散して民意を問うことを意味している。

【Regional:地域的】
 regionは14世紀から英語になる。原義はラテン語の「指導する」の意味。17世紀中葉からはregional(地域の)が形容詞として使われるようになり、用例の大半は支配、被支配関係を前提として使われている。また文化的な用語として、「劣った」形態をさすのに用いられた。
 19世紀にはregionalism(地域主義、地方分権制度)という語が現れたが、はじめのうちは中央集権が十分整っていないことを指す語であった。一方、現代的用法として「地方特有の」など、対抗運動をさす用い方もあるが、今なお昔の従属の意味を含む言葉である。

【Community:共同体、共通性】
 14世紀から英語にある。語源はラテン語の「共通の」である。英語に定着して広範な語義をもつようになった。
 とくに大事なことは、この語が社会組織を言う他のすべての語state、nation、societyなどと違って、否定的に使われることが全くなく、肯定的な他の語を突きつけられることが全くないように思われる点である。

【Reform:改革・改革する】
 動詞のreformは14世紀に英語に入ってきた。前形は古フランス語及びラテン語にある「再び形づくる」を意味する語である。
 初期の用例はほとんど、①元の形に修復する、②新しい形に変える、という二つの潜在的な意味をもっている。15世紀に名詞reformationが出てくるが、この語も両義性をもつ。17世紀においても用法として「刷新」に向かうと同時に「復旧」の方向にも向かう。20世紀になると社会主義運動との関係で「修正主義(者)」の意味にも使われるようになる。

 以上、いくつかの用語を引いたが、本書では全体で131個のキーワードが出ている。上記のほかstructural(構造的)、media(メディア・媒体)、ideology(イデオロギー)、generation(世代)などにわが関心の眼がゆく。 

(2011.11.12記)