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イッセイエッセイ

660号 農業とTPP

2011年11月18日(金)

 農業問題の書物や論文は、どれを読んでも全体として腑に落ちることが難しい話しが多い。制度論とシステム論、個別論と成功物語などが分裂して展開する。それに市場主議論と保護主義論の対立が極端である。
 政策はどこまで実行するかが重要だが、このことについても、国の政策は実行を途中で変更してしまうことがひんぱんであり、混乱が生じている。農業の当事者も、自らのことについて心が定まっていると断言できないところがある。
 以下は福井県の農業政策について助言をいただいたことのある生源寺眞一(東大教授)の「日本農業の真実」(2011年5月 ちくま書店)から、比較的理解のしうる箇所を要約したものである。原則論にとらわれず、現実にすぐ出来ること、直ちには困難であることを区別して書かれているように思う。

 水田農業の農地規模の拡大は、大きくなればコスト的には生産性がよくなるが一方的ではなく、一定の限界がある。それはほぼ10ヘクタールまでである。理由は二つあって、日本の現状ではある大きさになると圃場間の距離が遠くなり分散化が生じ集約に限度があること、土地利用型である稲作の作業適期(1か月程度の期間である)が限られ規模の利益に限度があることのためである。これに生産調整分を加味し4割とすると、15~16ヘクタールがベストの規模となる。そもそもモンスーン・アジアの農業規模は、ヨーロッパ等とちがって米作による人口の扶養力が高く、面積は小規模ですんでいる。

 農村コミュニティの価値について、日本の水田農業は二階建(二層)構造になっている。上層はビジネスの層である(市場経済との交渉下にある)。下層・基本層は伝統的な古い農村コミュニティ層であり、農道、水利維持など共同行動を支えている。これら二者が専業・準専業の農業経営と小規模農家のさまざまな経営として現象する。

 環境保全型農業は、供給側からの意識的な識別情報の発信努力が必要である。土地利用型と集約型の組合せ、価格形成への能動的な関与など厚みをますことが重要であり、農産物は経済的な必要品であると同時に高度に選択的な商品であることをよく認識しておくべきである。

 食糧自給率を政府が目標として明示することになると、分母の国民の消費量(国民の食生活)に政府が関与する必要が生じる。ミクロ経済学の理論では、消費者主権を尊重するというのが多数派であり、これは国民の食べ方にお上が文句を言うことの不都合につながる。しかし国民医療費など社会負担の問題につながることであり、政府はあながち無関心でよいわけではない。
 日本の農地生産の現状と作物収量の組合せにより、カロリー供給力が最大となる農業生産を行った場合、イモ類が増えて、油脂が極端に減るが、一人一日2000カロリー程度となり、ようやく生きていくカロリーをまかなえる状態にすぎない。

 農地の流動化や集積の促進には、現行制度そのものの改革よりも制度を運用することにより解決できることが多い。とくにその場合、運用の実績を評価しチェックする機能を導入することが必要である。

 なお、農業補助金との関連での、戸別所得補償制度、生産調整については、本書から十分な理解ができなかった。

(’2011.10.29記)

 政府の「TPP交渉参加表明」を報ずる今日の産経新聞(2011.11.12 9面)において、生源寺眞一氏(現在は名古屋大大学院教授)は、「TPP交渉への参加を受けて、いずれは関税が撤廃されるという危機感が農業再生を後押しすることを期待したい」
 「・・・賛成派と反対派の意見対立が先鋭化した。亀裂を修復し、冷静な議論をすることが農業再生の前提となる」
 「酪農、畜産、畑作などについて明確な方向性がないことも問題だ」
 「・・・10年プラスアルファの時間がある。・・・タイムスケジュールを作ることが求められる」
 「民主党内には・・・コンセンサスの水準が低い。・・・所得補償の枠組みなどを決めるには強力なリーダーシップが必要になるだろう」
と語っている。 

(2011.11.13追記)