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イッセイエッセイ

659号 乗物にて次々と

2011年11月15日(火)

 古いタイプの車(セドリック)が高速道を背後から現れて併走し、あっという間に追い抜いて行った。現在の車と比べて平たく角ばっておりカラーも白系ではなく青灰色である。
 様式やファッションと呼ばれるものの変化は、時代差といっても先の車は20年ほど前のものにすぎないと思われるにもかかわらず、何故かそこにある種の美しさ、古い良さを印象として与える。
 昨日は立冬、だんだん曇りや雨の日が増える。今日はさいわい天気になるようだ。朝の七時すこし前、上空を見上げると、白く透き通ったような鳥の羽のような軽い雲が西北から流れている。早い風が上空を過ぎている。
 北の空の海側は、灰色の雲が層状に重なって、この種の雲が日が経つにつれて陸上に伸びだし、やがて雪やみぞれを降らすことになるのだろう。東の空はちょうど朝日が昇ったところであり、うすい霧の中を通しておだやかな乳白色の光をのばしている。高速道の西側の杉の森にその光が入りこみ、何列か奥の幹まで白く浮かびあがらせている。
 ここで景色からの印象が飽和して注意がそれ、頭の中に些末なことが浮かんできた。二、三の事を憶えておいたのでこれを再現すると都合がよいのだが、想い出せないのだ。何かを短時間だけ記憶しておこうとする場合、A・B・Cそれぞれ重要度はちがっていても、差を設けることがむずかしく同程度に記憶してしまわなければならない。頭の使い方がそのようにできている。この不都合をどうしたらよいのか。話す内容は忘れていないが、より大事な話す相手の名前を憶えてなかったりして困ることがある。
 飛行機に乗る。急激に上昇して福井平野の上空に来ると、今日はとくに空気が澄んでいるため、濃越の県境に近づく前にすぐ富士山の鋭角な形が山脈のうしろに見えるすばらしさである。こんなことはこれまでない。中央、南アルプスはもちろんのこと、関東平野に押し出している秩父や両毛の峯まで見えているのではないかと思えるほど、遠くの山脈まで視界が開けた希有な眺めである。
 ANAの機内誌には、アイルランドのアラン島の風景と名産の手織編セーターの観光特集、また福井鉄道の紹介や沿線の名物などがイラストで載っている。 

(2011.11.9記)