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イッセイエッセイ

655号 過去の非常時体験

2011年11月10日(木)

 日経新聞の「私の履歴書」に登場される著名人たちは、今日の時点では、ほとんど戦前の教育をうけ、敗戦の意味を十分に実体験してきた人たちばかりである。したがって、連載記事の前半七回、八回くらいが戦中・戦後の状況にあたるので特に面白い。戦争の体験(子供や青年時代としての)や現代の常識では考えられない破天荒な話もあって、それが読むに耐える体験や教訓となっている。しかしその後の話になると、高度成長期の成功譚が一般であり、すべてのことが語られているともみられない部分もあり、興味はやや失われることがおおい。
 そして残念なことにあと十年もすると、こうした面白いエピソードもだんだん消えてゆくであろうと想像する。
 さて、日経新聞の履歴書の下段に連載されている「交遊抄」は、現役で活躍している人たちの話しであり、年配といってもせいぜい昭和20年代の生まれが限度である。戦争体験の話しは皆無であり、同窓会、留学、ゴルフ、酒場などが話題として出てくる。先輩のことについて書かれたものもあり(私もそうした)、それは昔の人についてのことであるが、書いている本人はそうでない。したがって桁が外れた種類のものではあまりない。二つの世代ないし半世代の日本人の違いが、歴然とそこに表われているのである。
 現在連載中の前田勝之助さん(1931年生まれ)の履歴書はまもなく終る。その1回目(2011.10.1)は3月11日の異常な地震体験から始まる。
 そこの記事では、日本人は「自助」「共助」はできるが、「公助」はどうか、「昔に比べて我が国民は軟弱になっている。組織、リーダーシップが曖昧になってしまった日本が、大地震という国難に立ち向かうことが果たしてできるだろうか」と疑念を述べる。そして阪神大震災のときの企業防衛に当っては、伊勢湾台風(1959年)の非常時体験のある工場長を、会社の対策本部長に命じたという。また終戦時旧制中の4年だった著者は、まず「私の原点は焦土の中にある」という。
 話し変って、すこし以前の毎日新聞の、「戦後史のなかの3.11②」(2011.9.9)には、敗戦で21才の兄を失ったという政治評論家の森田実さん(1932年生まれ)が、インタビューに登場している。
 大震災は、日本人の秩序正しさ共同体の連帯意識を発揮させた。この日本的なものに戻るべきであると述べる。そして「第二次大戦を経験していない世代が主導権を握るようになってから、政治は急速に幼稚化した。苦難の時代が力強い政治家を育ててきたのです」という。「最低限、中選挙区制に戻すべきです。・・・小選挙区では、実力者に気に入られればすぐに政治家になれる。今の選挙制度のままならば、日本はつぶれます」とも付け加える。日本の今後は「シンクタンク国家」として世界の先導役を果たすことであり、「たくさんの日本の課題を世界共通の課題だと認識させ共に解決する道を探る」のが方向とする。
 いずれも同世代の戦争には行かなかったが、戦争を体験した人たちであり、話されることもよく似ている。 

(2011.10.29記)