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イッセイエッセイ

639号 二寸の蟲

2011年09月20日(火)

 南側の軒に棚の日陰をずっと作っていた朝顔の葉が急に少なくなり、季節のせいかとも思っていた。九月の三連休に棚をよく見ると、原因はそればかりではなく大きな蟲がいるではないか。
 それは長い芋虫のようにでかい奴で人の中指ほどの大きな形をしている。色はトラの皮のような姿のもの、それにやや緑がかったものなど成長の工合がややちがうのだろう、目をこらすとすくなくとも数匹はいる。
 どれも動かず葉の柄に沿って裏側に静かにしている。保護色と保護形をかねて身を守っているといってよい。
 このごろ棚の下のコンクリートが黒くよごれ、蟻がたくさんたかっているのはなんだろうかと漠然とながめていたがどうやらこの害虫(といってしまうのはどうかと思うが)のせいだなとようやく合点したのである。
 尾の方には橙の小さいツノがあり、触れたりするとひどい目にあう感じだ。簀から外れて落ちた竹の棒でつついて下に落そうとするのだが、私の顔の高さよりも上の方の葉にくっついており、葉もふらふらしてすこぶるしづらい。それに強い躰の粘着力があって落ちそうで落っこちないのである。仕方がなく葉柄の根元から切りとって葉ごとにコンクリートの地面に落した。下には蟻がいる。すぐに二つの生き物は接近戦になる。五、六匹の小さい蟻が躰に乗っかってくるとまず身をねじり振るようにして払う。そして次にゆったりした動作を急変させ突然に映画の中のモスラのように身をうねらせて相当の速さで一直線にその場所から走り逃れるのには驚きである。
 これは昨日の話である。今朝もまだ一、二匹は残っているかとジッと調べてみた。やはり雨にぬれた葉の裏に眠るようにして一匹はいた。同じことをしてみたが相変らずしぶとく葉にすがっているのである。そこで葉と一緒に落花させた。蟻もまだ活動せず葉が一枚あるので静かにそこで憩っている姿なのである。三十分ほど用を足してまたどうなったか戸を開けて眺めてみると葉っぱだけが残っていて、もう蟲の姿はなかった。朝顔の根元の方に戻ったのか、それとも鳥が来てすぐに食べられたのか、どちらかのはずであるがわからない。おそらく後の方の運命ではなかったかと想像する。
 ここでイソップ的蛇足を思った。生き物は身の回りの一番近い環境が変わっていなければ、それよりもさらに外の大きな環境条件が危うく変ってしまっても、ほとんど気がつかないのではないかと言うことである。

 

(2011.9.19記)