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イッセイエッセイ詳細

イッセイエッセイ

621号 回想のセザンヌ(1912年 エミル・ベルナール著。 初出「白樺」1913年 有島生馬訳)

2011年07月10日(日)

 本書は、1953年に岩波文庫として出版(本体は60頁の小文)され、今年の2011年2月に第6刷として再版されている。文章も旧かな使いのままである。したがって、最新の文庫本のように解説が巻末になく、どういう状況で書かれた本か、また著者がどんな人物かは詳しく分からない。ただ次のようなことは本文からも伺い知れる。著者は画家であって伝記作家、セザンヌの信奉者として最晩年の1か月余りをセザンヌの近くで過ごし、その言動を回想記として記録したということである。

 ゼザンヌの言葉から、
・モデルを熟視せよ、そして正確によく感じよ、然るのち明快と力をもって表現せよ。(59頁)
・自然にあっては萬物が悉く球体として、円錐体として、円筒として、立体視されている。今その単純な形に凡てを翻訳して描く方法を学びとるならば、容易に望む所を成就し得る筈である。(32頁)
・水平線に交叉する鉛垂線は深みを加える。自然は広がりよりも深みにおいて見られるべきもの。(57頁)
・五十を越えれば、余り厳格に人がそれを咎めはしないにしても此の年で女を裸体にするというのは慎まねばならぬ。(25頁)

 この本からセザンヌ翁(と表記されている)の同時代人の人物評がわかる。尊敬できる人物は、画家としてピサロ、ドラクロア、ルノアール、マネ、ヴェロネーズ、ドォミェ、ルーベンス、時代は離れてティントレットなどベネチア派。文学者としてはバルザック、ボードレールの名。一方、ゴォーガン、ゾラは好まず。
 セザンヌからベルナール宛ての1904年6月23日付の手紙の中に、青年画家たちの集まりのことが書いてあるが、ジョワシャン・ガスケの名前があがっている。この人物が本書とは別の岩波文庫にある「セザンヌ」を書いた著者ということになる(2009年「セザンヌの言葉」398号 参照)

 

(’11.7.3記)