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イッセイエッセイ

619号 梅の実落つ

2011年07月06日(水)

 昨年は梅の実がほとんど付かなかったが、今年はわりあい沢山なった。庭の梅実を採ってもう二週間ほどになるが、とり残された十個か二十個あまりの梅の実はだんだん黄色くなり、毎日少しずつ地上に落ちる。落ちた後、いかにも以前からそこに置かれているかのように丸く凛としている。何日かごとに掃かれるので掃除のあとの樹下は土とツツジの繁みだけとなる。そして今年は梅雨の前線が列島の南北によく動くので、今日は急に雨も降ってきて干物もぬれてしまう。
 徳冨 蘆花「自然と人生」の湘南雑筆「梅雨の頃」(明治三十二年六月十八日)に、次のような描写ある。このことを今日発見した。まさに今の季節を描いたものである。
 雨降りて止み、止みては又降る。鴉聲(あせい)蛙聲(あせい)と、交々(こもごも)雨晴を争ふ。雨の絶間に出でて麦藁(むぎわら)まじりの(しん)(でい)を踏みつつ、村を過ぐれば緑くらき家には人ありて梅子(ばいし)を落し、畑には甘諸を植うる女あり。田は大方植えられぬ。・・・・・・
気重うして濃かなり。村より出づる煙の湿(うるお)うて立ちも上がらず、(もや)となりて()へるを見よ。山の(あい)深く緑重うして(てき)(すい)を落さば、色融けて流れむずるさまを見よ。山に(ふくろう)の聲あり。雨はらはらとまた降り出でぬ。(蘆花全集三巻 新潮社 昭和4年)

 

(’11.7.4その日に記)