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イッセイエッセイ

604号 猪退治

2011年05月27日(金)

 有害獣のイノシシに対する効果的な退治方法はないものか、最近どこの農山村に行っても陳情をうける話題である。

 結局、いまは昔のように人間が山に入らないから、山が荒れたままになり、猪や鹿が田や畑に下りてきて荒らすのだ、と反省し合う。そして、猪を撃退したり駆除したりする作戦を、あれこれ試みるが、成果は上がっているようでもあるが、そうでもない所もある。

 民俗学の柳田国男の著した「孤猿随筆」(1939年)が、最近、文庫本で出た(2011年3月 岩波文庫)。猿やら狐、猪、猫、狼などの動物譚のあれこれが集められている。

 その中に「対州の猪」(1939年、昭和14)というイノシシをめぐる話が入っている。陶山庄右衛門(すやましょうえもん)という長崎対馬の偉人が、島じゅうの野猪を柵に追い詰めて捕り尽したというのである。島の恩人たる陶山翁は享保十七年に七十六歳の寿を以て終られたと書いてあるから、江戸時代のずいぶん昔の物語である。

 柳田によると「対馬殲猪事蹟」という記録を渡瀬教授という人が「動物学雑誌」に載せたので、庄右衛門の対馬における政治的活躍がよく知られるようになったらしい。この猪退治の方法は、驚くべき奇抜であり、いっぺん聴くとどうしても忘れることが出来ないと記している。だが読み進めてゆくと、この民族学者のいつもの癖で話があちこちに跳び、行ったり来たりして、肝心な退治作戦が実際どのようだったか最後まで分からずじまいなのである。対馬の猪は海を泳ぐことが判明した、というところで文章は終っており、不満がいつもながら残るのである

 さて、柳田が読んだという翁の事蹟にどんなことが記録されているのか、動物学雑誌を捜すか、あるいは長崎県か対馬の役場に問い合せるか試してみたいと思うのだが。

(’11.5.23 記)