西川一誠後援会サイト

イッセイエッセイ詳細

イッセイエッセイ

1291号 ダイノ争論(4)―恐竜学をめぐる問題の将来は

2018年03月13日(火)

 「知られざる日本の恐竜文化」金子隆一著(2007年)を読んだ。以下に恐竜をめぐっての学問研究、文化現象、ビジネスの内幕などについて、著者が提起する話題を引用しながら、メモ的に記し参考にしたい。
 まず前後を逆にして、最終章(第5章)「恐竜学はどこへゆく」から始める。ここでは著者は恐竜学をめぐる問題点をまとめている。恐竜学の「実用性」と「ファンタジー」といった永遠のテーマについての話しである。

  • 恐竜は生物学ではなく地質学であり、地球惑星科学の一環であるという意識が必要である。
  • 化石はほとんど水性堆積岩にしか形成されず、この地層にはエネルギー産業などに役立つ金属、石油資源が含まれていないので、恐竜学は産業面で実用にはつながりにくい問題がある。
  • ヘニッヒの分岐分類学(cladistics)にもとづくジャック・ゴーティエの恐竜分類学は、現生生物には有効だが、古生物にはあまり向かない。なぜなら恐竜は必要な質量の標本数が十分とはいえず、統計上において遺伝形質の恣意的な選択をしていないという学問条件を満たすことができず、さらに遺伝子情報などで系統樹(クラドグラム)を別途検証できないという問題がある。恐竜のデーターマトリックスは、限られた骨の特徴に限られており客観性が弱い(例外として骨内のタンパク質・オステオカルシン?の研究)。
  • 日本の恐竜学は、いまだ「個」の学問の段階にある。

 大体以上のように述べておいる。では本書が恐竜学の将来に悲観的な著作かと思いながら戻って最初の章から読み始めると、恐竜をめぐる日本的な物語やインサイドストーリーの説明が沢山あってなかなか面白く、恐竜博物館などの将来の姿を考えるのに役立つ。なお、本書では県立恐竜博物館の写真を多く(5枚)好意的に収録している感がある。
 本書の最初に戻って、第1章(恐竜の経済的側面)。
 恐竜マーケットはいくらか?、恐竜はビジネスになるのか、収支はつぐなうか、文化事業か、科学的恐竜展の成立はなぜむずかしいのか、メディア大手など主催者のマンネリ化がなぜ起こるか、イラストには画力が必要であると述べている。
 第2章(恐竜ブームの虚像と実像)。
 特異な恐竜情報大国である日本(例外はアメリカである)、恐竜のことを本当に知ろうとしないのに人気がある社会的要因は?、映画ゴジラ(1954年)の影響力の大きさ(ケネス・カーペンター博士、ウルトラマンと怪獣、ポケモンマニア)、恐竜についての意識調査が世の中に少ない、恐竜ファンの好きな理由は――強そう、かっこいい、面白い、巨大、今いない、不思議etc。
 第3章(恐竜学はオタクの科学)。
 論文は年間数百本出る(新種は6週間に1つずつ)、恐竜オタク(「オタク」―1984年の中森明夫氏の本に由来)は、英語文献が読めることが必須。
・一次資料を有する古書店(バーグマン、ポール・グリスティなどといった書店があるらしい)、現在ではネットが主(GSW、Ingenta、Cambridge Online Journal、Acta palaeontologica polonica、Gaia、Proceedings of Royal societyなどを紹介)。
 そして次のようにいかのもオタク的に言うのは、英語にからんだ議論として面白い。
 「現代の恐竜学について、自分なりのパースペクティブを確立しようと思ったら、ともかく問答無用で一次文献を読みまくることである。遠回りのように見えても、それしか方法はない。これが唯一の正道である。自分は英語が読めないだとか、論文の集め方がわからない、などと言う泣き言は一切受け付けない。読める読めないの問題ではない。読んで生きるか、読まずに死ぬかだ。これをやらない人間とは、恐竜を語るに値しないと言わせていただこう。ここを超えて、はじめてその人は輝かしい恐竜オタクの称号を得るにふさわしい人間となるのである。」(第3章、116-117頁)
 恐竜に「萌え」ないのが、恐竜オタクないし恐竜「数奇」のアマチュア科学者。
 化石がどこでどの時代地層から出るか、どの科に属すか(場合によっては新科の創設、属種科名ができる)―「原記載標本」、1960年代の恐竜ルネサンス(恐竜温血説の登場)による統合科学化がおこる(骨細胞、CTスキャン、O2同位体研究、バーチャル骨格運動の再現、タンパク質・オステオカルシンの分析、いまだDNAは未発見)。一方で、中世代の地層露頭の総量は限度あり、発掘が尽きる日がくる。恐竜の有効属数は527種である(2006年現在)。Wang & Dodson(2006年)という本の参照がのっていて、これまで200年ほどの間に500属あまりが見つかり、2050年頃には1300属ほど、2100年頃には1700属で大体90%ほどが見つかるのではないかと述べる。2000種類までで限界に達するのではないかと示唆するグラフがこの本に付されている(149頁)。
 また化石の産出量が絶対的に乏しい日本の限界を指摘している。
 第4章(日本の恐竜文化は、今)
 今、日本国内で発見されたすべての恐竜化石を集めてもおそらく四畳半の部屋を埋めることはできない。
 恐竜フィギュア文化―「恐竜クラブ」編集の田村博、アドリアン・J・デスモンドの「大恐竜時代」(二見書房 1976年)、恐竜造形師の荒木一成、海洋堂(大阪守口市、1964年~)の松村しのぶ(1987年~)、食玩「チョコエッグ」(1999年~)など。
 古生物のイメージを創るための最大の源泉は現生生物であり、イラストレーターは恐竜イラストの前に絵かきであることが必要、プロ意識、オリジナリティが重要、代表的な恐竜画家であるスデネック・ブリアン(1905-1981年 チェコ)、鈴木英人、空山基、恐竜イラストレーター・山本聖士、松本栄一郎などを紹介。
 恐竜学最前線(学研)、ディノプレス(オーロラ・オーバル社)、いずれも雑誌(井上正昭編集長)。
 「だいたい、考えてみれば、今日本には、恐竜で正式に学位をとった本当の意味での恐竜の専門家は5人もいない。恐竜の本を書く人間は、筆者も含め、何らかの意味で素人ばかりである。少数の専門家に、毎年のように恐竜展の監修や恐竜シンポジウムの仕切り、そのほかさまざまな雑務が押し寄せるから、なおさら彼らには自分の研究についての啓蒙書など書いている暇はない。」(第4章「日本の恐竜文化は今」)

(2018.1.8 記)

 ○目を通した本(百科事典系と研究分野系を何冊か読めば後は重複感が出るようになり、そこで入門が終わったことになるようだ)
  「徹底図解-恐竜の世界」金子隆一・監修(新星出版社 2010年)
  「恐竜イラスト百科辞典」ドゥーガル・ディクソン著、小畑郁夫監訳(朝倉書店 2008年)
  「面白いほどよくわかる恐竜」小畠郁夫(日本文芸社 2008年)
  「恐竜たちの地球」冨田幸光著(岩波新書 1999年)
  「恐竜の骨を読む」犬塚則久著(講談社 2014年)
  「恐竜はなぜ、鳥に進化したのか」ピーター・D・ウォード、垂水雄三訳(文藝春秋 2008年)
  「恐竜」デーヴィット・ノーマン(丸善出版 2014年)
  「アジアの恐竜」董枝明(科学出版社東京 2013年)
  「知られざる日本の恐竜文化」金子隆一(祥伝社新書 2007年)
  「世界恐竜発見史―恐竜像の変遷そして最前線―(2009年)」ダレン・ネイシュ著、伊藤恵夫訳・監修(Neko出版 2010年)
  「そして恐竜は鳥になった」土屋健著(誠文堂新光社 2013年)
  「日本恐竜探検隊」真鍋真、小林快次編著(岩波ジュニア新書 2004年)
  「ティラノサウルスはすごい」真鍋真、小林快次著(文春文庫 2015年)
  「恐竜の復元」真鍋真・総監修(学習研究社 2008年)
  「恐竜の時代 改訂版」NEWTON別冊(ニュートンプレス 2012年)


 ○さらに読むべき本(沢山あってやや切りもなやか)
  「恐竜異説」ロバート・T・バッカー著、瀬戸口烈司訳(平凡社 1989年)
  「恐竜大百科事典」1997年 Farlow、Brett-Surman編、小畠郁生訳(朝倉書店 2001年)
  「恐竜学名辞典」松田真由美著(北隆館 2017年)