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イッセイエッセイ

1313号 微笑む山々

2018年04月26日(木)

 私たちの眼の視線は水平方向に真っ直ぐに働くというのがふつうである。遮ぎるものがいささかでもあったときには、そこで視界が全く途切れてしまい、その先の空間を感じることはできない。建物や木立ち、山や丘などにかこまれて生活していれば、おのずから井の中の蛙、狭い盆地のような世界の中に無意識的にいることになる。
 しかし、飛行機に乗って離陸直後に眼下に自分たちが日常生活をしている地域を見下すとき、ずいぶんと平地部が大きく場所を占め、山々の形も広々と地図のように展開していることに驚く。毎日の生活は定まった閉鎖区画を動いているだけのことなのであるが、上空からはいつもは見えないより遠くの展望が一望できるからだ。
 人間は地上の物であり行動範囲も狭いから、いよいよx軸平面上に視界と思考がとどまる。y軸方向は虚数的平面となって存在しないのも同然であり、一般にはそれでよく問題はないのかもしれない。しかし上から遠く眺る視点は大事にしなければならないだろう。
 周りの山々が屏風であり壁であっても、4月後半にかけての周りの景色は最も愛すべきものである。新緑のはじまる今頃は、山々や森や林の木々がその緑をそれぞれ絶妙にことならせて、どんどん盛り上ってくるため、山の尾根や谷の曲線の微妙な(ひだ)の様子が8k映像のようにはっきりと奥行きを立体的に浮び上らせる。さらにその先に残雪の青と白からなる高い峰などが目に入ることもあり、実に美しい風景をかもし出す。
 地上を走る高速の車は無粋なものだが、この季節だけはなぜかジオラマの一部のように構成されて、まんざら風景として捨てたものでもないのである。

(2018.4.19 記 快晴、高浜へ)