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1289号 ダイノ争論(2)―恐竜の分類(分岐学)に分け入る

2018年03月13日(火)

 恐竜の分類は、18世紀のリンネ(1707-1778年)にならった分類法から変って、最近の進化の概念に基づく分岐分類法によっている。これは昆虫学においてヘニッヒ(1913-1976年)が提唱したものであり、恐竜についてもゴーティエ(米・加大)が1984年に同様の方法を導入して普及した。
 共通祖先から或る特定の形質をもって枝分かれした分岐点(ノード)以降の幹と枝を単系統群(クレード)と呼ぶ。従ってこれら各グループは特徴のある進化的な共有派生形質(シナポモルフ)を有するという理論をとるのである。
 ただしこうした方式は、現生動物に適用する場合には、十分な標本数の収集が可能であり、さらに分子遺伝学の手法による系統的検証を加えて補完することが期待できることになる。しかし恐竜の場合は標本数が極めて限られており、時間的スケールも恐竜と恐竜の間で最大では数千万年もの違いがあるので、この分岐学を適用して分岐図(クラドグラム)を作ったとしても、当然ながら大きな限界がある。
 こうした学問的なことはともかく、恐竜学の知識獲得のためには、関係する本を読みながら一覧性のある系統図の入った百科事典で恐竜名を同時併行して参照しないと、混乱をして先に進めないことになる。
 具体的な分類に話を進める。
 白亜紀に6000万年もの間生存していたという「竜盤目」(サウリシア)――恐竜は伝統的に「竜盤目」と「鳥盤目」に二大分類される――に属する肉食系の「獣脚類」(テロポーダ)――これは草食系の「竜脚類」と対をなす――の下位系統であるオルニトミムスを例として取り上げてみる。
 オルニトミムスとはラテン語名で俊足である「ダチョウ」を意味する恐竜として知られる。さらに分類上詳しく言い表してみるならば、この恐竜は、竜盤類(目)―獣脚類(亜目)―テタヌラ類<真っすぐな尾の意味>(下目)―コエルロサウルス類<空洞の尾のトカゲの意>の、そしてその下位系統としてティラノサウルスやフクイベナトール(勝山産)を含め10種類ほどのグループに属する1つの分類であるオルニトミモサウルス類(オルニトミモサウリア)類中の、オルニトミムスという恐竜になる。
 これらの恐竜分類は統一を欠くところが若干あり、またグループ名も様々に表現され、古生物学の分野では公式分類群の名称と非公式名称を併用するのが「慣例」らしく、ともかく分かりにくい。また、このコエルロサウルス類という分類に至っては、かつてはあらゆる獣脚類をこの区分の中に便宜寄せ集めしたような時期もあったという。

 以上のことは、下記の参考書などから。
(1)「徹底図解 恐竜の世界」金子隆一著(新星出版社2010年)入門編としては最適。
(2)「恐竜イラスト百科事典」ドゥーガル・ディクソン著 小畠郁夫監訳(朝倉書店2008年)恐竜の分類と復元がくわしく一覧できる。
(3)「恐竜の復元」(真鍋真・総監修 学習研究社 2008年)骨格と復元(フィギュア、イラスト)の関連、恐竜研究の分野別課題がわかる。
(4)「恐竜学名辞典」松田真由美著(北隆館 2017年)恐竜の名前の全覧と意味、分岐学上の系統、トピックが載る。

 さて改めて<オルニトミモサウルス>の正式の意味を見てみる。
 名前を構成する単語の順にしたがってラテン式名で<鳥類・もどき・トカゲ>となる。
 そして、このグループに属する以下にような個別名をもつ恐竜が発掘されているのである。(順に名称と説明、生息時代、発掘場所)

 ○オルニトミモサウルス類

  ・オルニトミムス<鳥類もどきの鳥に似たもの>(白亜紀後期・カンパニア期~マーストリヒト期)、アルバータ州・テキサス産。
  ・ペレカニミムス<ペリカンもどき>(白亜紀前期・オーテリーブ期からバレーム期)、スペイン産。
  ・アルカエオルニトニムス<古いオルトニムス>(白亜紀前期~後期)、内蒙古産。
  ・ガルディミムス<モンゴルの仏教神ガルーダに似たもの>(白亜紀後期・コニアク期~サントン期)、モンゴル産。
  ・ガリミムス<ニワトリに似たもの>(白亜紀後期・マーストリヒト期)、モンゴル産、群れる習性―映画ジュラシックパークに出演。
  ・アルセリミムス<がんに似たもの>(白亜紀後期・ガバニア期~マーストリヒト期)、モンゴル産。
  ・ストルディオミムス<ダチョウに似たもの>(白亜紀後期・カンパニア期)、カナダ・アルバータ州産、胃石もつ―植物食。
  ・ドロミケイオミムス<エミューに似たもの>(白亜紀後期・カンパニア期~マーストリヒト期)、アルバータ州産、最速73km/hとも、薄暮にも強視力。
  ・ディノケイルズ<恐ろしい手>(白亜紀後期・マーストリヒト期)、モンゴル産、腕骨のみ発見、骨体不詳。

 さてオルトミモサウルスは、白亜紀の6000万年間ほど生存したらしいのだが、その間ほとんど新しい形質を取得することなく、進化する程度が少なかった(つまり進化速度が遅かった)と言われている(上掲書(3)から)
 それぞれの恐竜は、分岐学では「※※より○○に近い共通祖先をもつ」という言い方をする。その際に、恐竜学では「スズメ」の名をよく使うようであり、これは現生鳥類の代表の名に使っているにすぎないという(同(1)50頁)。例えば「オルニトミモサウリアはスズメよりもオルニトミムス寄りに最新の共通祖先をもつグループと定義され」という言い方をする。そして同じグループはたとえば、足や手の指の数、骨の中空、葉の特徴などの項目について「共有派生形質」を持つと説明する。
 なお鳥類は、混線しやすいのだが「鳥盤目」から派生したものではなくて、「竜盤目」の「獣脚類」の「コエルロサウルス類」から由来するものであるとの研究結果が出ていて、用語の一貫性がなくややこしいのである。
 また例えば次に例を挙げるカマラサウルス(県恐竜博物館に真骨標本あり)に近い首長竜のティタノサウリアは、「1999年にアルゼンチンのロドフォ・ユリア、ホリへ・カルボらによって設立された分岐群であり、カマラサウルスよりサルタサウルス寄りに最新の共通祖先をもつグループと定義」などとも説明される。(同(1)、(4)435頁)
 なお、形質が似ていても(ティタノサウリアとディプロドクスの有する顎と歯の例)、これは二次的な収斂の結果であり直接の祖先関係がないというような説明も行われる。
 また、今ほどのテタヌラ類(下目)に属していて、コエルロサウルス類と並ぶもう一つの分類であるやや古いグループとして、白亜紀前期の獣脚類であるカルノサウルス類(カルノサウリア)<肉類>があり、この中に福井県のフクイラプトルが含まれている。

○カルノサウルス類

・アクロカントサウルス<高い棘突起のトカゲ>北米、オクラホマ・ユタ・メリーランド産。
 ・ネオベナトル<新しいハンター>イギリス・ワイト島産、草食のイグアノドンが同時期の同地域に生息。
 ・アフロベナトル<アフリカのハンター>アフリカ・ニジェール産。
 ・フクイラプトル(フクイラプトル・キタダニエンシス F.kitadaniensis)<福井の略奪者>テタヌラ類―カルノサウルス類 記載者Azuma and Currie 2000年 白亜紀前期・バレーム期、手の大きなかぎ爪が特色、原始的なカルノサウルス類、堅い尾。

 さらに、このカルノサウルス類とコエルロサウルス類が属するテタヌラ(下目)と同順位で、やや古い進化のグループとして、ケラトサウルス類(下目)がある。ここにはケラトサウルス類やアベリサウルス類が属する。
 このアベリサウルス類を例として詳しく見ると、以下のような個別の名をもつ主な恐竜が発掘されている。
 これらの各恐竜はジュラ紀後半のアベリサウルス(上科)に由来するのだが、白亜紀前半にアベリサウルス科とノアサウルス科に分かれたとされる。アルゼンチン、マダガスカル、インド、アフリカ、ニジェールなど現在の南半球に分布した。ゴンドワナ大陸が分裂する時期に関係しているらしい。

・アベリサウルス<アベル博物館長のトカゲ>アルゼンチン産、標本は頭骨の一部のみ。
・マシアカサウルス<悪いトカゲ>マダガスカル産、標本一体のみ。
・ノアサウルス<北西アルゼンチンのトカゲ>アルゼンチン産。
・タラスコサウルス<プロバンスのドラゴンのトカゲ>フランス産、標本少、発掘者不明。
・アウカサウルス<営巣地アウカ・マウエボのトカゲ>アルゼンチン産、尾先のぞいて全身標本あり、復元標準になる。
・カルノタウルス<肉食の雄牛>アルゼンチン産、完全な骨格標本あり、前腕ほとんど矮小。
・ルゴプス<しわくちゃな顔>アフリカ・ニジェール産、歯からみてスカベンジャーと見られる。
・マジュンガトルス<マジュンガ地方のドーム>インド・マダガスカル産、共食い。

 次に竜盤目のもう一つの系統である草食の「竜脚類」(サウロポーダ)に属する前述した首長竜のティタノサウルス類(ティタノサウリア)を例に挙げてみる。
 もともと竜脚類は全盛期がジュラ紀末と見られていたが、近年の発掘調査では白亜紀ぎりぎり末期まで(恐竜の絶滅期)生息し、全大陸に拡散して多数の属を生み出した(とはいってもゴンドワナ大陸・南米が中心)。その最も進化した竜脚類の主要メンバーがティタノサウリア<巨人のトカゲ>であり、竜脚類の進化の最終形であるというのが定説である。しかし分岐の過程や系統関係にはいまだ定説がないようだ(同(1)68-69頁)。この竜脚類のティタノサウルス類は発掘されている骨格も不完全なものが多く、とくにこのグループは頭蓋骨が小さくて弱いため、頭骨が完全に発見されているものが少ない。歩き方は足跡からみて歩行の横幅が大きいといわれる(同(2)206頁~)

 ティタノサウリアに属する個別の恐竜は以下のとおり。

・アンデサウルス<アンデスのトカゲ>(竜脚(下目)―マクロナリア類―ティタノサウルス類、白亜中期・オーブ期)、アルゼンチン産、40m地上最大、標本は少数の椎骨と若干の下肢骨と肋骨のみ。
・パラリティタン<浜辺の巨大動物>(分類は同上、オーブ期~マノセン期)、エジプト産、標本一種のみ―16種の骨と100個の破片のみ、上腕骨1.69m最大、体重78~80トン最重。パラリティタン・ストロメリィの種名P.stromeriはドイツの古生物学者エルンスト・ストローマー博士(1870-1952年)を記念している。((2)と(3)の著書の生体復元図は同じ恐竜でも似ておらず、サイエンスとアートとの違いを感じさせる。前者はヒーター・バレット作、後者はトッド・マーシャル作)。
・サルタサウルス<サルタ州のトカゲ>(同上、サントン期~マーストリヒト期)、アルゼンチン産、白亜最後期、背に皮骨質の装甲板あり。
・アンタルクトサウルス<南極地方のトカゲ>(同上、カンパニア期~マーストリヒト期)、南米産、標本は比較的完全(同一個体かどうか疑問)、2,3mの大腿骨。
・ブルハトカヨサウルス<重い体のトカゲ>(同上、マーストリヒト期)、インド南部産、名称はサンスクリットの語源。
・ヒプセロサウルス<高い隆起線のあるトカゲ>(同上、マーストリヒト期)、フランス・プロバンス、スペイン産、10頭以上の散乱標本、卵(?)も。
・マジャーロサウルス<ハンガリーのトカゲ>(同上、マーストリヒト期)、ハンガリー、ルーマニア産、当時のヨーロッパは島状の状態、矮小種(大型種の股をくぐれる程大きさ)。
・ゴンドワナティタン<ゴンドワナ大陸の巨大動物>(同上、マーストリヒト期)、ブラジル・サンパウロ産、あらゆる部分の骨の標本あり、高度の進化、中型種。
・アエオロサウルス<風の強いトカゲ>(同上、カンパニア期~マーストリヒト期)、アルゼンチン・パタゴニア産、背中の装甲の破片(15㎝)もあり、尾を支えに後ろ足で立ち上がり針葉高木の枝葉を食べたか。
・ボニタサウラ<ボニタの丘のメスのトカゲ>(同上、マーストリヒト期)、アルゼンチン・パタゴニア産、種名B.salgadoiはアルゼンチンの専門家レオナルド・サルガドイにちなむ。パタゴニアにボニタサウラのものとみられる最も見事な営巣地化石層が発見されている。この同時代、同地域には肉食の獣脚類のアベリサウルス類(ネオケラトサウルス科目<鼻角のあるトカゲ>の系統)が生息していたとされる。
・アラモサウルス<ハコヤナギ樹のトカゲ>(同上、マーストリヒト期)、北米・ニューメキシコ・ユタ・テキサス州産、北米地域の竜脚類には3500~4000万年の空白がある。同時期のアラスカには発見されず、気候の違いかと説明されている。テキサスにはこの種が2㎢に一頭の密度でいた、つまり35万頭いたという研究あり。アラモは有名な砦の名ではない。
・エパクトサウルス<重いトカゲ>(同上、マーストリヒト期)、アルゼンチン産、骨格標本は一体のみ、ほぼ完全。
フクイティタン(福井県)。

 以上、恐竜分類の考え方の一部と個々の恐竜名を、やや脈絡を欠きつつなじみをつけるために書いてみた。
 分岐学に従って典型的な恐竜をすべて系統樹に当てはめてみることによって、初めて恐竜のことが分かりかた気持になる。

(2017年.12月 記)