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イッセイエッセイ

1244号 スタート・ザ・ビギン

2017年07月04日(火)

 日本人が、英語の「始まる(始める)」に当たるbeginとstart、この2語を語感の違いとしてどう区別しているか? そもそも両語に使い方に違いがあるのか? 勿論単語として違うのだから違うのだろうが、問われてもやや困る。
 ある本によれば、英語の頻出動詞のリスト(BNSユーバス)では、beginはよく使われる方から37番目に、startは40番目に位置している(エッセイ941号「英語動詞の勢力」)。頻度はほぼ類似しているとみてよい。しかし、始まる(始める)を用いて英作文を作ろうとして、まず思い浮かぶ英単語は何か──人によって違うだろうが、小生などはbeginの方が先に出てしまう。startのほうはカタカナ和製英語としてはよく使われるにもかかわらず、startは一考した後にようやく出てくるかどうかの気分の単語である。これは学校でbeginしか(過去、過去分詞形など)習わなかったからではないかと思う。
 最近出版された「似ている英単語使い分けbook」(ベレ出版2016年)、著者は清水建二・すずきひろし(高校教師・英語塾などの方)という二人であり、類似の「動詞」、「形容詞・副詞」、「名詞」の三類型を、日本語では同じ意味であっても英語では使い分けがあることを、類語も加え時には語源の解説も入れて用例を示している便利な本である。
 この本によると、It began (started) to rain.という表現はどちらでも有る。しかし、微妙な違いもあり、雨が降るという状態を、startは「第三者的」にとらえ、beginは「当事者」としてとらえる視点であると解説する──野球場で雨が降り始めたとき、それをテレビで視ている人はstartと表現し、濡れてしまう選手にとってはbeginを使うことになると言う。そうなると、この主語Itは、startの場合はthe Godであり、beginの場合はthe rainということになるか?
 また、startは、「静から動」というように「活動状態への移行」に焦点があり、出動、指導(突発性が含意されている)のイメージがある。たとえば、ヨーイ、ドン。
 一方、beginの方は、「連結活動」の「始点」という時間的な部分に焦点が当てられていると解説する。
 ピストルを撃つのはスターターであり、初心者はビギナーであって、逆ではないことになる。よって、
  The engine started suddenly.(突然エンジンがかかった)
  The fire started in the kitchen.(その火事は台所から出た)
 また、
  The story begins in a London suburb.(物語の始まりはロンドンのとある郊外) 、と
 例題の正解を示す(239-241頁 この本ではstart、beginを動詞類として61番目に掲載)。
 しかし、ロングマンの「英々辞典」を見ると、互いに言葉の説明に使い合っていて、次のようにある。
 <start>=
  to begin doing something.
  ex. I’ve just started learning German.
     Damn! It’s just started to rain.
 また<begin>=
  to start doing something or start feeling a particular way.
  ex. We began to wander if the train would even arrive.
     I’ll begin when you’re ready.
 一方、ラジオ英会話には次のような例文があった。
  ”when can you start?” (アルバイトに)仕事は何時からできるか?
  ”immediately.”今からでも・・・
「ジーニアス英和辞典」では、次のように解説されている。
  start=「静止の状態から運動の状態へ移る」が本義。
  begin=「運動や過程を始める」が本義。
 そして、startは、自動詞、他動詞の順で意味と用例が示され、⦅自⦆は、出発する/始まる/着手する/突然動く/生じる/(その他5例)、⦅他⦆は、始める/動かす/始めさせる/(その他5例)で、全体で一頁を費やす。
 一方、beginの方は、他動詞、自動詞と逆の順であり、⦅他⦆は、始める/まったく・・しない(否)/、⦅自⦆は、始まる/出発する(人が~として)/生じる/と全体で半頁に足らない。
 「始まる」のところに「startの方が口語的」と、簡単に両語の比較が記述してあるのみである(記述がしてあるのは救いである)。
 このことから、startの方がより有効な(?!)動詞かと思うと、上述の通り、beginのほうが辞書の解説量からみる限り、若干ながら頻出度が高いので、いよいよどちらがどっち、分かりにくいことになる。
 ここまで来ると、startもbeginも似たりよったりと思う一方で、又どうしても互いに代替不能の用例があることも分かってきて、すっきり解明しないことになる。
 このことから結局は、沢山の(やや不正確かより日常的に使われる多くの)用例を学習者の耳に馴れさせて、まるで日本語のように日本人が相違わないと同様に馴れさせることが大事となる。使い分けの理屈を作り出してあまり詮索しても、説明としては後知恵的に当ってはいても、実際はそのことだけでは正しい使い方ができないおそれが出る。どっちつかずで腑に落ちない状況になりがちである。
 ジャズのスタンダードナンバーに有名な“ビギン・ザ・ビギン”という素晴らしい歌がある。1935年に作曲され、作詞・作曲はコール・ポーターという人である。
 これはカタカナの字を見ても、またジャズを実際に聞いても、始めるのを始める、としか聞こえない。しかし後の方のビギンは、beginではなく(The)Beguine〔bɪgíːn〕であって、西インド諸島のダンス音楽のことであるらしい。もちろんこれを“スタート・ザ・ビギン”と歌うわけにはいかないのであって、音として韻がふめないから全く調子が出ないのであろう。
 “Begin The Beguine”の歌のstartは、
 ──When they begin the beguine であり(最終の歌詞のところもそうである)、途中に──oh yes, let them begin the beguine, make them play!とも歌っているところである。

以上はすべて(歌の話の部分を除いて)、文章を読む形式の上で両方の単語の使い方の異同についてを書いたのだが、結局のところ、最もよく使われるような場面で、startとbeginがどう使われそれに馴れているかが学習上問題であって、両者を並べて頭で論じること自体が学習に大きく有効であるということではないのである。

(2017.6.25
記)