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イッセイエッセイ

1236号 文法はどうして作られたか

2017年06月18日(日)

 チョムスキーの「生成文法論」が、これまで比較的素朴であった言語研究に新しい方法論を導入したことは、言語の研究を大いに刺激したであろうし、またそのように解説もされている。
 しかし、その「生成文法」のアプローチが、その理論の出発点の考え方について、同じ系統にあるデカルトやカントの思考ほどに、説得力を持って学問的に受け入れられるであろうか、となれば疑問符がつくようだ。
 またチョムスキーの「生成文法」は、名詞句と動詞句からなる「句構造規則」とその「変換」に係る「表層構造」と「深層構造」を用いた説明や(いわば深さの方向におけるヘブライ的な二元論と言ってもよいか)、「普遍文法」(人間の生得のコトバの文法)および「個別文法」(幼児の個別言語の習得)の提示、「構造」と「意味」の峻別など、様々な道立てと仮説を導入して説明を行っている。
 しかし、この文法論がもし真に成功するためには、言語生成の出口ベースのわかりやすい証拠として、コンピューター(AI)を用いた普遍的な文法構造(正しい語順など)の基本となるプログラムがまず作成でき、さらにこれを基礎に各言語の個別情報を用いてそれを基に積み上がる個別文法のプログラムを作成でき、最も少ない作業エネルギーによって言語相互間の自動翻訳が可能となれば、おそらくは生成文法もより説得力をもつ理論になるのではないかと考える。
 近い将来、果たしてかかることが可能となるかどうかは知らぬが、現在実用されつつある自動翻訳システムは、おそらく碁や将棋のAIと同じように、知る限りの数多くの実例(文法例と辞典)を入力して、そこから可能な限りの通用するようなセンテンス(文)をしかるべき語順と語彙を使って出力しているのではないかと思える。そうであれば、わざわざ「生成文法」の仮説、と言うほどの効用が今のままではないことになる。
・町田健著「チョムスキー入門=生成文法の謎を解く」(光文社新書 2006年)
・チョムスキー著「統辞構造論」(1957年 岩波文庫 2014年、福井直樹・辻子美保子訳)
・同「統辞理論の諸相」(1965年 岩波文庫 2017年、福井直樹・辻子美保子訳)

(2017.5.27
記)