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イッセイエッセイ

1207号 正しい姿勢と襷掛け

2017年03月26日(日)

 「襷掛け」とは、紐をもって和服の両袖をたくし上げ両肩を通したうえで背中で筋違いに結んでできるものである。いまの日本人の服装は和服ではないから、一生の間に襷掛をするような機会はまず無いであろうし、言葉さえも知らないかもしれぬ。やや雰囲気の似ている「鉢巻き」にしても小学生のころは村ごとに白赤黄青緑など運動会などでの記憶があるが、いまでは職業柄これをすることはたまさかにはあっても、タスキ掛けとはやや様子と趣きをことにする。しかしこの鉢巻きすらも、暫らくすればやがて遺風となるにちがいない。
 帯に短し襷に長し、茜襷に菅の笠、高田馬場に駆けつける中山安兵衛など、昔のことわざや民謡、時代劇の場面でも男女を問わず、襷掛けというのはかいがいしく働いたり、すわ一大事の場面には欠くことのできない小道具であり、そのための素早い所作も素養の一つであったと思われる。
 お正月の年賀会で二人の芸妓さんが優雅な踊りの後、越後獅子という白布の流しのようなものを両手で自在に動かす演目を行うとき、急いで赤のタスキを舞台横でしめているのを見て、将にやっているなと思った。
 さて、年を重ねるとどうしてもだんだん背中が伸びなくなり、猫背気味になる。さまざまな体操や太極拳などの習い事がさかんだが、背中が丸くなるのは何の場合にも不都合なことが多い。リハビリなどでもできるだけ背筋を伸ばす訓練を日常的にもして欲しいと言われるそうだ。
 そして簡易な矯正法として、家庭でも普段着の上からタスキを掛けて椅子に坐っていると、背筋がタスキで後側に引っ張られて伸びる姿勢になり、身体が背中から前かがみになるのを防ぐことができるという効用の話なのである。若い女性の姿勢がよいのは、この原理にもとづいた別の原因からかもしれない。

(2017.1月 記)