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イッセイエッセイ詳細

イッセイエッセイ

1098号 パンセ(1089号からの続き)

2016年01月06日(水)

 「自然本性は懐疑論者を打ち負かし、理性は独断論者を打ち負かす。ああ人間よ、きみは生来の理性を用いて自分の真のありようを探究しているが、きみは一体どうなるのだ。きみはこれらの党派のいずれかを逃れることも、そのいずれかに留まることもできないのだ。」(「矛盾」断章131 150頁)
 訳注によると、パスカルの先人であるモンテニューの三分法では何かを探す人は誰でも、『見つけた』、『見つからない』、『まだ探している』の三種の派に落ち着く。つまり逍遥学派・エピクロス派・ストア派などは『見つけた』派、アカデメイア派(クレイトマコス、カルネアデスなど)は探究に絶望して真理は人間の手段では理解できないと判断する『見つからない』派、ピュロンその他の懐疑論者すなわち判断保留者ならびにゼノン・デモクリトス・クセノファネスの一派の系統は『まだ探究中』派でありホメロス・七賢人・アルキロコス・エウリピデスに由来するとみなされている。
 パスカルはこれを単純化して独断論と懐疑論の二項対立で論じている。
 「山のあなた」のカール・ブッセの詩は、幸せを「まだ探している」派の典型といえよう。

 「私たちは、目を外に向けさせるものをいっぱい抱えている。本能は、幸福は自分の外部に求めるべきだと感じさせる。情念は、それをき立てる対象が眼前に見えなくても、私たちを外に追いやる。外部の対照は、そのことを考えていないときでも、対象のほうから私たちに呼びかけ、誘いをかける。」(「哲学者」断章143)
 この章では、上記につづけて「きみの内部に立ち戻りたまえ。きみの善はそこにある」というストア派の哲学の難しくもむなしい教えを批判している。

 「三つの欲心が三つの学派を作り出した。そして哲学者たちは、三つの欲心のいずれかに従う以外のことはしなかった。」(同 断章145)
 訳注では―三つの欲心とは、感覚欲、支配欲、知識欲である。そして感覚欲(官能性)にエピクロス派、支配欲(傲慢)にストア派、知識欲(好奇心)が生み出した学派にソクラテス以前の自然哲学者やプラトンとその後継者たち(アカデメイア派)やアリストテレス派、デカルトなど、が当てられるとしている。

 「人間は信仰なしには真の善も正義も知ることができないこと。
 人間はみな幸福になることを追い求めている。探究に用いる手段がどれほど異なっていても、そこに例外はない。人間はみなこの目標を目指す。ある者が戦争におもむき、他の者がそうしないのは、両者のうちにあるこの同じ欲望による。違いは、幸福についての見方だけである。意志はこの対象に向ってでなければ、一歩も動かない。これこそすべての人間のあらゆる行動の動機だ。首をくくりに行く者にいたるまで。
 それにもかわらず、大昔から、かつて誰も信仰なしにこの地点、万人がたえまなく目指す目標に到達した者はいない。万人が嘆いている。君主も臣下も、貴族も平民も、老いも若きも、強者も弱者も、学者も無学者も、健やかな者も病める者も、あらゆる国、あらゆる時代、あらゆる年齢、あらゆる身分の者が。
 これほど長い間、これほどたえまなく、同様の苦悩が繰り返されてきたことを思えば、私たちには自らの努力で善に到達する能力がないことを自覚してもよさそうなものだ。」(「最高善」断章148)
 この「幸福」に対する願望の究極表現は、ヒルティの『幸福論』においてと同じ見解にあるように思える。
 「哲学的見地からはどのようにも反対できようが、しかしひとが意識に目ざめた最初の時から意識が消えるまで、最も熱心に求めてやまないものは、何んといってもやはり幸福の感情である。そしてこの地上では現実に幸福は見つからないものだと完全に確信した瞬間は、およそひとが経験する最も痛ましい瞬間である。」(ヒルティ「幸福論」から)

 「すべての不可解なものは、それでも存在する。無限数、有限に等しい無限空間。」(「ポール・ロワイヤルにおいて」断章149)
 「私たちは無限が存在することは知っているが、その本性は知らない。」(断章418)という一文が、この節の訳注に引用されている。

 「また私は、きみたちが否定することのできない驚異と証拠を示して、私自身の権威を確立し、それを通じて、私が教える事柄をきみたちが信ずるように仕向けるつもりだ。権威の重みを考えれば、それらの事柄が存在するかいなかをきみたち自身が確認できないからといって拒絶することはできないのだから。」(同)
 この文章は擬人法(プロゾポペ)で語られ、人間でないもの(神のことか)を私として語らせている。なお「権威」とは、直接に知ることのできない事柄ではあっても信用をして受け取らせる根拠となる信憑性のことである。(訳注から)

(2015.12.29 記)