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イッセイエッセイ

1054号 ギリシャ危機とEU(新聞記事をもとに)

2015年08月17日(月)

 ギリシャ政府は、IMFに対する約15億ユーロ(約2100億円)の返済期日(2015年6月30日)が迫る27日、EUから求められている財政再建策の合意を目前に、突然、国民投票を実施することを表明した。「反緊縮」を掲げるチプラス政権にとって、これを盾にしながら支援交渉の期限延長を引き出す賭けでもあったようだ。しかし同日、不信感を募らせたEUによって拒否された。改革案の受入れの是非を国民に委ねるという希首相のこの言動は、協議を続けてきたEU各国にとって予想外であり、失望と怒りを買ったと報道されている。
 返済期日が過ぎた後に行われることになった7月5日の国民投票では、政権が受け入れ反対を国民に呼びかけたこともあり、厳しい暮らしを強いられているギリシャ国民の6割が、EUの緊縮策に反対するという結果になった。

 今回の国民投票について各紙の報道をみると、朝日新聞では吉田徹准教授(北海道大学)が、長引く危機の中で厳しい暮らしを強いられている国民の不満を吸い上げて支持を得たチプラス政権が、民意を人質に対EU交渉を有利に進めようとするねらいだったと述べ、このやり方は、キャメロン政権がEU脱退を問う国民投票を背景にEU改革を迫る政治手法と似ていると解説している。
 また、同紙が紹介しているプラトン・ティニョス准教授(希・ピレウス大学)の意見も、今回国民投票は、改革案の受け入れというより、緊縮策そのものの是非を問うものだったと述べる。ギリシャ政権が民主主義の生まれた場所と繰り返したものの、表明からわずか1週間余りの国民投票であり、民主主義に必要な議論と熟慮がなかった、しかもこの手段が選ばれた背景には、EU側の改革案をめぐり、希政権与党内で合意調整ができず、首相は国家のリーダーとしてではなく、政党の崩壊を防ぐための党首判断を優先した結果だとも述べている。
 さらに、毎日新聞は、福田耕治教授(早大)が「EU連帯維持課題」と題し、EU加盟国の総人口5億人以上の中で、人口1100万人のギリシャにおける約6割の有権者の反対票によって、他のユーロ圏の命運が左右され民主的な正当性があると言えるかは疑わしいと述べ、今回の国民投票は、欧州レベルと主権国家レベルでの民主主義のギャップという政治学の根本に関わる問題を提起した、という見方をしている。

 ギリシャは、改革案の受け入れ反対の表明結果に沸いたはずだが、銀行のATMには長い列ができスーパーは品薄になるなど、経済の行き詰まりが現実味を帯びた、緊縮生活はうんざりでもEUを去りたくないという本音がでたのか、緊縮に反対したはずの国民が、いつの間にかEU離脱反対に変わってしまったと報道している(中日新聞)。また、ギリシャに対し信頼をなくし強硬になったEU各国は、国民投票の前より厳しい緊縮策について、これをのまなければ交渉を打ち切り、文書だけでは信用できないとして法制化も要求したとある。首相は経済破綻で政権を手放しては元も子もないと考えたのか、EUに譲歩して、7月15日、求められていた財政改革法案を国会で可決したことにより、ギリシャ危機は一応収束に向かうことになった。

 ギリシャは、年金受給年齢の引き上げ、付加価値税の引き上げなどの財政再建を目指さざるをえない。しかし、景気悪化のなかで税収は思うようには上がらない。メディアによれば、2010年から14年までに、GDPは25%減少し現在の失業率は25%、25歳未満の若者の失業は49%に上る。EU離脱をひとまず回避したとはいえ、海外送金などの規制は当面続くほか、証券取引所も営業休止を続けるなど、企業や国民が大きく制約を受ける状況は変わらず。一層の緊縮への不安が重くのしかかっている。

なぜギリシャは「怠け者」とみられるのか
 現在の危機は、統一通貨ユーロが持っているシステムに由来する。だが、支援再開に慎重のドイツでは、シュレーダー政権の下で2003年に構造改革をすでにやり遂げており、公務員改革や税制改革などをし残しているギリシャをなぜ支援するのかという意見が根強い。EU支援による財政再建を果たしつつあるアイルランドなどの国がある中で、ギリシャを特別扱いすべきでないとの意見も出ており、ギリシャは怠け者だ(=改革努力が足りない)という話になりがちなのである。
 加えて「バルカン半島最南端で、自由主義圏の孤塁として米国や西欧から特別扱いを受け続けた国への、冷ややかな視線もあった。東西冷戦時代には米国の軍事・経済支援を受け、81年のEC加盟後は、西欧の金が流入した。国民は各種補助金でドイツの高級車を買った。今考えれば、外資と国際援助で支えられていたに過ぎなかったのだ」と読売新聞(伊熊幹雄・編集委員)は解説する。

欧州の安全保障
 ギリシャ危機は、事実、単なる財政問題にはとどまらないところがある。米国は、NATO加盟国で地中海の要衝にあるギリシャの財政危機とこれに乗じるロシアの接近を懸念して、「ギリシャのEU残留が共通の利益」と強調している。バルカン半島の南に位置し黒海と地中海をはさみ、ロシアや中東と向きあうギリシャは、東西冷戦時代から戦略上の要衝とみられている。NATOはクレタ島などに軍事基地を置いており、ロシアがウクライナに軍事介入して以降、その重要性は増している。
 毎日新聞の福島良典・ローマ支局長は、ユーロの信任失墜や経済混乱を恐れたフランスやドイツが態度を軟化し、引き受ける経済的な負担と前途多難は覚悟の上で、西洋文明の「揺籃の地」であるギリシャを仲間に留めておきたいという政治的な決断が下されたと解説する。

財政の立て直しは至難の業
 だが、観光や海運のほかに競争力のある産業がないギリシャにとって、財政の立て直しは至難の業とみられる。増税は中心産業の観光業を直撃する。年金改革も政権を支持する公務員からの反発が必至である。過去の政権においても、公務員削減など聖域に踏み込み、ストや抗議デモで支持を低下させ、総選挙で政権を失ってきた経緯がある。
 産経新聞によれば、これまでの支援にもかかわらず、対GDPの債務残高率は増加傾向にあるため、巨額の債務の扱いが焦点となるという。債務の減免は債権国の納税者の理解を得にくい。他の加盟国への財政援助を禁じた規定に抵触する恐れもあるが、議論する必要性はあるとし、今後の成否はこの一点にかかっているとも述べている。

日本への教訓
 日本経済新聞は、「ギリシャ危機の日本への教訓」と題して、ギリシャ危機は対岸の火事ではないと指摘する。財政赤字が大きいという点で日本もギリシャも大差はないが、EUやIMFから融資を受けるギリシャに対して、日本における債務はほとんど日本人が保有し、日本の産業競争力はなお高いとする。ギリシャ危機は01年のEU加盟で低利の資金調達が可能となり年金優遇など放漫財政を招いたために起きたことであり、それに04年のアテネ五輪が連動したことは、今の日本に重なるところもあるとする。ギリシャのようになるには遠いとした上で、放漫財政の重いツケはいずれ払わされるというのである。

(2015.8.6 記)