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1051 号 スコットランドの独立運動(政治における分離と統合、説得行動と投票)

2015年08月09日(日)

 近代国家が誕生して以来、分離的な運動は反逆的に見られ、統合方向的な運動は融和的、正義的に見られる。
 スコットランド独立党(SNP)の主張した今回のスコットランドの分離のための投票は前者の例であり、ヨーロッパで進むEU統合などは後者である。しかしイスラム国家をつくろうとする最近の闘争は、分離なのか統合なのか改めて別途の議論が必要である。
 スコットランド独立のための投票(2014年9月18日、木曜日)翌日、9月20日付の邦紙の解説を通読すると、今回のスコットランドの英国からの独立をめぐる住民投票が否決された意味がわかる。スコットランドは、530万の人口で英国全体の8%を占め、面積は北海道よりやや小さく、国土の3割、GDPは1割を占めるという。
 まず投票率が過去最高の85%(84.6%)という高い水準であり、賛否の割合が運動の期間中に一度賛成側にクロスをした。しかしそのあと最終的には、重大な決断における一種の現状回帰的な現象が生じ(メディアの解説用語による)、中立点から5%ほど反対側(55%)へ逆移動し、賛成側(45%)が10ポイントの差をつけられたことになる。
 独立について反対多数と出た背景には、中央政府からの自治権の約束、独立した場合の経済悪化の懸念(英政府がポンド使用を拒否など)があり、さらに金融機関や大手小売チェーンがスコットランド独立なら本拠地をロンドンに移す意向を直前に発表、物価上昇が避けられないという攻勢が行なわれた。結局は独立党が家計に敏感な女性有権者らの支持を失ったという状況の報道であった。

 
地域的にみてもイングランド境界に近い諸州や金融業中心の首都エジンバラは反対票が多かった。逆に南西部(グラスゴーなど)は製造業が空洞化し高齢化した地域が賛成票が多く、英国産業のサービス化によるロンドン一極集中、産業のサービス化を批判した。

(2014.9.23 記)

 イギリスにおけるスコットランド独立運動の不成立は、これ総じて政治よりも経済の優先、熱いロマンや愛郷の気概よりも通貨や物価の安定を求めるという心理的結末が強かった。スコットランドの人々にとって、彼らの政治的願望が、連合王国から分離独立を成功させるだけのエネルギーと希望力をもつものではなかったということを示す。スコットランドの域内における都市間での、独立支持率の高低の違いも、経済的事情が政治意識に如実に反映したものとなった。
 しかし、EU下のヨーロッパにおいては、国家を中心とした近代国家の政治構造を維持しながらも、国家をふくめた三つのレベル―EUという国家連合の求心力が大きくなる一方で地域主義が台頭―という三層構造が生まれてきている。その結果、スコットランドのような国家の一部分が、自らが帰属する国家を超えたEUに自己の主権をあっさり委ねてしまい、むしろ小国として逆に新たな独立を維持しようとしてEUへの所属を期待する、という新しい傾向が出てきたのである。
 また今回は政治決定のプロセスにおいて基本となる「投票(選挙)行動」に加えて、メディアが伝えるように政治家の「説得」(脅しから泣き落しまで)、過大な利益「約束」、また民間企業レベルでの(金融、小売チェーンのロンドン移転)地域への攻勢が行われ、さまざまなレベルの手段が尽くされて結果がでた感がある。
 読売新聞によれば、今回の残留は「住民投票 政府へ脅しの効果」(松園伸・早大教授)があったと観測しており、スコットランドが伝統的『相互扶助』の精神が根強い地域であり、また、社会・経済・文化的にも北欧の福祉国家に近いこと、そして、民族問題が力による解決以外にもやりようがあること、を示したと述べている。
 毎日新聞の小倉孝保欧州局長の解説―「国富」偏在に不満―によれば、サッチャー以来の新自由主義的な政策もあり、英国の貧富の格差は過去最大であり、長者番付上位5家族の資産合計が貧困層20%の資産合計を超えている、と述べている。今回の独立運動は、競争重視の米国型社会を目指している英国政府と北欧型の社会民主主義を志向する地域政党との対立と捉えることもでき、アダム・スミスが国家論(1776年)の中で「スコットランドの中流以下の人々は連合によって、自分たちを抑圧してきたスコットランド貴族の支配から完全に救われた」と語っていることを引用している。(985号、1006号参照)
 中西輝政・京大名誉教授は産経新聞において「日本の安保・外交に直結」と題して、一国のある一地域の問題が世界の外交や安全保障などに影響を及ぼすことになった、という見方を展開している。「もし独立が成っていたらと思うと背筋が凍る」…つまり英国の経済力・軍事力の低下、世界経済や為替の不安定化、日本の安全保障や外交にも直結し、英国の西側大国の役割低下でロシア・中東・中国への米国のにらみが利かなくなること、パワーバランスの崩れによる中国脅威の拡大、うねりは北アイルランド、ウェールズ、EU諸国、中東、ロシアにまで飛び火の可能性あり、将来的には沖縄の自治権拡大や独立論にも拍車をかけるかもしれないという構図を示す。英国政府のスコットランド自治拡大の容認は、独立成立の代償に比べ比較にならない実に危いところだった、と見るのである。なお同紙には「日本では国民投票で帰属を決めることは歴史的になじまない」という菅官房長官の会見記事がでている。

 これをまとめると、投票翌日の2014年9月20日の日本各紙の社説は、産経「英国に留まってよかった」、読売「独立否決でも難題は残った」、毎日「国家の進化につなげよ」、朝日「国の姿を見直す契機に」というタイトルになっている。そして関係する報道や解説記事の各紙の分量は、上記の各紙の順序で大小となっている。

 さてその後、翌年の2015年5月7日には、英国で5年振りの下院総選挙(議席650人、単純小選挙区制)が行われた。保守党が過半数(326)を超える331議席となり政権を維持できた。事前の世論調査でほぼ拮抗状態とみられた労働党は、232議席(24議席の減)に止まり、連立与党であった自民党も56議席から8議席へと激減してしまった(連立中の小党の方が埋没する現象、ドイツ・メルケル政権にも類似例あり)。
 それに代って、上述の地域政党「スコットランド独立党」が逆に6議席から56議席に躍進し、入れ替わる形になった。
 なお、これより十日ほど前の朝日新聞「時時刻刻」(2015年4月26日付)には「英国二大政党の落日」と題して、二大政党の得票率が1951年(チャーチル首相)の96.8%のから、2010年(キャメロン首相)の65.1%と長期的低下しており、「二大政党制」は終焉を迎えていると報じていたが、現象的にはそうした結果にはならず地域政党が伸びたのである。
 (新聞による記事、やや重複するが以下に付記)
 メディアによれば、住民投票の余波は当然に英国内に出ており、独立の風潮やスコットランドの権限拡大が進んだ場合、他の地域の不満が高まることになり、とくにウェールズなどは自分たちも「平等の権利を持っているはず」だと自治権の拡大を求め出している。事は英国内にとどまらず、スペイン・カタルーニア自治州(いまのところ独立支持は3割、住民投票は違憲と憲法裁判所は牽制)、イタリア・北部ベネト州など(住民投票の州法改正を国が憲法裁判所に提訴)、ベルギー・フランデレン同盟(当面、自治権の拡大)、中国・新疆ウイグル/チベット自治区など独立の風潮がある。
 スコットランドの独立はUKの金融資本市場の混乱、北海油田の喪失によるNATO内での指導力弱化が懸念された。世界政治との関係では、ウクライナ、イラン、イスラム国への影響、スコットランドが現状維持になったことにより英国の軍事力が低下せず、アメリカなどの同盟国は、とくにスコットランド南西部のクライド海軍基地(ミサイル搭載の原子力潜水艦の母港、非核化には3.5兆円必要)が維持できたことで安堵している。
 国家を超えた欧州連合(EU)との関係については、EUは近代国家の集合体であり、既存の国家や国境線を変える分離独立・自治権の拡大を懸念し、英国の統一維持は統合に利するので歓迎している。逆にまたEUの枠内の運動はEUへの求心力を強めるという考えを示す関係者もある。しかし地域主義、地域アイデンティティーを求める動きは、EUの中央集権化を補完する形で進むとみる。この夏(2015年)のギリシアの経済危機とEU離脱をめぐっての問題は、主権国家と国家間連合との未だ実験的な関係について、その不安定さを教えてくれている。

(2015.7.20(月)「海の日」 記)