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イッセイエッセイ

1040号 雑想(11)

2015年05月09日(土)

(資本とは何か)
 昨年放送されたNHKラジオアーカイブスの中に「思想史のマルクス」という十回以上にわたる番組があった。昨年はまたトマ・ピケティの「21世紀の資本」がベストセラーになった。
 「マルクスをどう読み直すか」というこの鈴木直教授(東京経済大)の講義は、19世紀から20世紀にかけての思想・経済・政治をめぐる一大論争史を扱ったものである。資本主義が発達した国々では、マルクスの予期に反して革命は起らず、むしろ後発の周辺国で共産国家が生まれた。その後の半世紀余り、資本主義との闘争の結果、社会主義が敗北し消滅してしまった。これは思想史上のパラドックスであった。いわゆる東西両陣営の対立時代においては、貧困層の労働者や中間所得者の生活が、資本主義国家の社会安定化政策によってむしろ向上した。そして今度は資本主義か社会主義かの対立がなくなって、この4半世紀の間に資産や所得の格差問題が再燃し、同時に大国覇権主義が世界の脅威となっているのも、政治・経済史からみたパラドックスなのである。
 ラジオの講義の中では(最終回)、ロックやルソーの思想に由来し誕生した近代国家の市民像が、経済活動において資本主義の体現者としてのブルジョア(市場主義・競争主義者)であり、国民の一員としてはシトワイヤン(平等主義・民主主義者)である、という二面性をもった矛盾が未解決のまま現代の課題となっていると述べる。
 思想史上におけるマルクスとヘーゲルの唯物論と観念論の対立、経済(資本のこと)が政治(精神のこと)を決定するのか、あるいはその逆なのかという問題は、もう一度「問い直す」必要があるというのが、講義のまとめなのである。

(企業子宝率)
 日経ビジネス(2015.3.9 No.1782)が、地方創生「日本を救う子宝企業」と題して、「企業子宝率」を特集していた。「合計特殊出生率」は常識化しており、女性が一生涯に産む子供の数を推計値にしたものである。「企業子宝率」の方は新しい考え方であり、男女を問わずある企業に属する従業員(男、女ふくめて)一人ひとりが、その組織に在職している間に何人の子供を持つかの数値である。「男性にまで出生率の概念を当てはめた点に子宝率の画期性がある」と特集では述べる。もちろん企業ごとの計算は、産業政策としての意味もある。
 東京に本社をもつ育児面でも先進な企業も、子宝率で見た場合には、たとえばオリックス(1.19人)、トッパン・フォームズ(1.14人)、富士ゼロックス(1.27人)・・・と低率になっており、「東京では一人しか産めない!」というこの雑誌の見出しになるのである。ちなみに、福井県内の例として紹介されているハウ・コーポレーション(越前市2.34人)、山惣ホーム(高浜町2.22人)などと対比すると、差は歴然としている。
 子宝率について「いち早く導入を決めた福井県は、2011年度から企業子宝率を算出している。従業員が10人以上いる企業は福井県には3200社ほどある。3回目となる2013年度は約750の企業から回答が得られた。初年度の297社から回答数は着実に増えている。同様の取組みは静岡県や佐賀県、鳥取県、滋賀県大津市などでも行われており、徐々に広がっている」と述べる(29頁)。

(2015.5.3)

(食の奇習)
 3月22日付の県民福井(5面)には、勝山市で「観音さまのおすすめ」という市無形民俗文化財(遅羽山北山)の行事が載っている。「おかゆ次々、女性ら泣き笑い」のタイトル、児童二人が地区内を回って集めたコメ五升で、男衆がおかゆを作り、女性たちのおわんに熱々のおかゆを「おーすーすめーん、めーん」と唱え、次々と注ぎ足して、彼女たちの日頃の労をねぎらう無病息災の行事のようだ。
 旧宮崎村(越前町)にある円満えんまという集落では、「お日待ち」という行事があるそうだ。12月17日が決まった日であり、いつも必ずこの日に村落の子供から大人まで全員が1ヶ所に集まって、小豆御飯などを食し一夜を明かす。そのときは村の全戸がカラになるという話しである(やや不正確に聞きとったところあり 4/28)。
 有名な今立町の国中区の「ごぼう講」は、さらに不思議な食の行事である。

(2015.5.3)

(どこで貧困が起きているか)
 2015.4.11版「週刊東洋経済」では、「貧困化する日本を地域に分解」、「貧困のない県も!広がる地域格差」というタイトルで、全国のほぼすべてで貧困率が上昇し、その中でも貧困の深刻度には著しい地域差があるという特集を組んでいる。
 とくに北海道は地域の公共事業が半減し、介護福祉サービスへの労働移転、しかしこれは札幌への人口集中と低賃金化をまねき、女性人口比率が上昇するなど、貧困化が著しいと分析している。
 一方、「対照的なのが北陸地域」であり、中でも「福井の数値は今の日本で驚異的だ。貧困率は10%以下、しかも過去と比べてわずかながらも改善している」、「実は福井は知る人ぞ知る『日本一豊かな県』だ」、「交通インフラは脆弱で、新幹線駅も大きな港や飛行場もない、巨大企業も立地していない」。
 しかしながらダブル正規インカムの大きさ、W厚生年金、主力産業として残った製造業(織物、眼鏡)の力、家族経営企業と従業員の優遇などつながりの強さで貧困を抑制、と説明している。
 しかし「今後も安泰である保証はもちろんない。悩ましいのは若者の県外流出だ」、「福井の例は地域や家族といった伝統的な日本社会の力をあらためて認識させる」と記す。

(2015.5.3)

(二重構造論)
 そのまま残してあった新聞の切抜き(中日新聞2014.9.14、「視座」4面)に、「地方創生と政治の可能性」という佐々木毅・東大名誉教授の論文が出ている。文面からみて、昨年末の総選挙より以前、当時の内閣改造において石破地方創生担当相が設置されたことにちなんでの寄稿である。
 地方創生の問題が難しいのは、「物の考え、特に経済の実態に対する考え方を変えなければ何も始まらない」ことが、関係者に十分理解されていないことだという。グローバル化による日本経済の変質や空洞化、円安にもかかわらず輸出が増えないこと等を考えると、どのような経済構造を前提に、アベノミクスを動かそうとしているのか、また中央において政策の旗を振ろうとしているのかが疑問であるという。
 「必要なのは日本にグローバル経済の理屈で動く経済と、地域密着型の理屈で動く経済という二つの違った構造を持つ経済があることを認識することである」、「日本経済が巨大なピラミッドであるような古い日本株式会社論から自由になることでる」、「法人税減税などについても、二つの経済の併存という構造変化を踏まえた議論がもっとなされなければならないはずである」と述べている。
 これは戦後さかんに解消が論じられた日本経済の二重構造論とは、どんな関係にあるのだろうか。

(2015.5.6)