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イッセイエッセイ

1033号 故郷という感情

2015年03月10日(火)

 「外國に行くと、外國も人間が住人でゐる場所であることに掛けて、日本と別に違ってはゐないことが解る。それに、例へば英國に行けば、暫くはもの珍しさにただこれが英國だと思ふだけであるから、どこそこと比べたりしないで自分がゐる場所を素直に眺める癖がつく。そしてその時、我々は始めてそれと同じ態度を日本に對しても取って、そこに自分が今まで住んでゐた場所を發見する。そして始めて行った外國でも、そこにも昔から人間が住み付いていたといふ理由から懷しく感じられるならば、どこに行っても自分の國であることが解る自分の國といふものは、それが故郷といふものでなくてはならない。愛國心のことを言ふ前に、我々は先づこの素直な態度を自分の國に對して取ることが必要である。」(吉田健一著作集第8巻 「頭の洗濯」に所収の「故郷」昭和34年から 集英社昭和54年)

 自分の町や国を(故郷として)理解する際の心情面のプロセスを述べている。その説明は往復的な一種のやわらかさをもった弁証法がとられている。つまり、外国での住み方をみて自国に対しても客観的に同じような見方をし、それによって外国に対しても親しみの感じを持ち、転じて自国というものを感じることができると述べている。そしてそれが「故郷」であり、「愛国」の前に抱くべき感情だとしている。

(2015.3.8 記)