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イッセイエッセイ

1010号 風土と幸福

2014年12月03日(水)

 ドイツの哲学者J・G・ヘルダー(1744-1803年)の精神風土学は、和辻哲郎の著した『風土』(1935年)に影響を与えたと考えられる。現に『風土』の第五章は、「風土学の歴史的考察」となっており、このヘルダーからヘーゲルの風土哲学などに至る思想的な系譜が論じられている。
 和辻哲郎によれば、ヘルダーが考える風土的・・・とは、人々の感覚、想像力、実践的な理解、感情や衝動が風土的なものとして現われるのであって、したがって一番大事な幸福もまた風土的・・・・・・・・だと観念している。ヘルダーの風土とは、自然と精神とを区別しない自然・・の概念であり、直観的・・・であり、国民の個性・・の尊重、継起の秩序においてものを見ずに並在・・の秩序において把握されるものである。

 ここで気になるのは、人びとの幸福というものが文明や文化の水準に係わるのではなく、風土的な性格を帯びるのだと理解されていることである。ヘルダーにあっては、素朴であって健やかに生きる歓びを、真の幸福であると考えているらしいのである。
 そうなると地域間の幸福度を客観的に調査しようとする場合、幸福感に影響を与えるはずの風土性のファクターをできるだけ捨象して比較しなければならない。幸福の定量的な比較は風土論から見ればはなはだ奇妙なことをしていることになる。
 しかし一方では、あらゆるものの画一化の大きな流れ、また世界的なグローバル化の傾向を考慮するならば、幸福度の調査は風土性の要素を除いてややリアルさを欠いたとしても、現代においてはやはり妥当性をもった調査なのかもしれないのである。
 今回バンコクに二泊の慌しい出張をするに際して、この文庫本の『風土』を手にしたのは、きっと機内中の五、六時間が退屈かと思い、平生読むことのない本をと思ったためである。しかし実際は、ハリウッド映画「ヘラクレス」を観てしまい、僅かの頁しか進むことができなかった。
 十一月下旬では日本とタイは気温差が二十度も違う。あちこちの露店での外食ライフスタイルが普通というバンコク、そして日本の東京の生活とを仮に幸福度で比較することなど止した方がよいことになる。しかし今朝からバンコクのホテルにはクリスマスツリーが飾られ、きれいな制服姿の下校生の集団、街は車で大混雑をしており、道ゆく人たちはスマートフォンに耳をあて、ビルが次々と乱立するバンコクの今の姿を見るとき、比較も有りかなと思う。

(2014.11.30 記)